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とりあえず仮ということでひとつ。
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アニメ化秘話
「は? 本気ですか?」

 ザ・チルドレン運用主任、皆本光一はとても上司にするとは思えない口調で返答してしまった。

「当然じゃないかねネ! この子たちは我が国最高のエスパーなのだよ!」

 超能力支援研究開発局(B.A.B.E.L.)局長、桐壺帝三は力説する。
 政府広報の一環として、バベルの活動をテーマにした地上波TV番組を制作することが決まったのだという。そして、その主役をチルドレンにするというのだ。

「さっすが! 見る目があるぜ!」
「本当やな。これでうちもスターや」
「うふ……面白そうよね」

 薫、葵、紫穂の当人達も乗り気満々。
 それが皆本の不安を一層煽る。

「局長、あの事件みたいになりますよ!」

 皆本が口にしたのは、電磁波義兄弟ことエレキ・照とマグ・熱人より実行された電波ジャック事件だ。あの時はチルドレンの改変された悪意の映像で、一般人(ノーマル)におけるバベルとチルドレンの印象を悪化させられそうになった。

「大丈夫やて、皆本はん。今度は妨害なんてさせへーんから」

 葵の言葉にも、皆本の表情は優れない。

「……ふーん。普段のチルドレンの活動が報道される方がよっぽどダメージが大きい、ですって」
「あ、紫穂! 勝手に思考を読むなと、いつも……」

 皆本は抗議の声をあげるが、遅かりし。

「なんだと、皆本! そりゃ、どういうことだ!!」

 薫の念動力(サイキック)が発動し、皆本は壁にめり込んでいく。
 いと哀れ。

「え、えーと、でも、顔はわからないように映像加工しますからね」

 なんとか話をすすめようとする秘書官・柏木朧の声も彼には聞こえているかどうか。ともあれ、チルドレンには聞こえたようで、お仕置を終えた薫は不平をもらす。

「なんだー、それじゃ、つまんねーじゃん」

 TVで大活躍して人気者、とはいかないらしいことに肩をおとしている。ことによると、母と姉へのコンプレックスがあるのかもしれない。

「しょうがないじゃない」

 妙に冷めたように紫穂にも若干の落胆が見える。
 大人びている彼女でも、俗っぽい気持ちはあるようだ。
 しかし、紫穂としても“顔出し”によるリスクが理解できてしまうだけに、こうした言い方になるのだろう。

「でも、うちらが名声を馳せる第一歩やないか! あとで名乗りでれば一気にスターダムやで!」
「そっか! 謎の美少女の正体がついにあかされる!ってか!」

 顔出しがないのに、美少女もなにもないものだと皆本は思うのだが、とにかく話を先に進めなくてはいけない。

「それで、本当にやるんですか?」
「もちろんだとも。撮影クルーもバベルの内部の者を選抜しておる。よろしく頼むぞ、皆本くん!」
「は、はぁ……」



 そして、約一ヶ月。
 ついにパイロット版が完成したということで、試写会が開かれることとなった。

「いやー、実に楽しみだね!」

 桐壺局長をはじめ、バベルの幹部も集まり、いよいよそれがスクリーンに投影される。
 まず初めは、どこかできいたようなワンダバな曲とともに、B.A.B.E.L-1が発進し、チルドレンは現場へと急行する。
 そして、次々と事件を解決する、チルドレンの勇姿……が?

「あの後ろにうつっているのはナニかね、柏木くん?」
「この事件の時に支えそこねて墜落したセスナ機ですわ」
「あの横にうつっている炎はナニかね、柏木くん」
「この事件の時に念動力が強すぎて崩壊したビルの跡ですわ」
「あの手前にうつっている金属はナニかね、柏木くん!」
「この事件の時に皆本さんが弁償することになったF-22Jですわ」

 超人的な編集の努力があったのだが、物事には限界とういものが存在する。

「なんとかならんのかね!」
「報告によりますと、これ以上はほとんどをCGでつくりなおすしかないと。局長があくまでドキュメントとして制作しろとのお達しでしたので、これ以上やるとフィクションになってしまいます」

 桐壺と朧が顔を引きつらせていく中、フィルムはクライマックス?に入っていく。
 超度7の特務エスパーと、運用主任であるノーマルの間には、エスパーとノーマルという垣根を越えた信頼があるのだと訴えためのシーンだ。
 インタビューアがチルドレンたちに質問する。

「貴方達にとって、運用主任とはどのような方ですか?
「んー」「そやなー」「そうね」
「「「愛人?」」」

 三人のハモった声に、ガコン、と何人もが椅子から転がりおちる音が聞こえた。
 が、それを無視するように場面はきりかわる。

「このように、任務の後も、ザ・チルドレンとM運用主任は仲睦まじい様子を見せます」

 そうナレーションをかぶせられた画面では──皆本が壁にめりこんでいた。
 M運用主任という匿名が性癖をあらわしているようにしか思えない。

「これでも、一番、軽いのを選んだと報告がきています」

 桐壺の機先を制して朧が手元の資料を読み上げるのとほぼ同時に試写は終わり、場内が明るくなる。
 が、全員が呆然とするばかりであった。

「……柏木くん。アニメというのは予算がどのくらいかかるものなのかね」

 真っ先に解決策を口にできたのは、さすがに局長だったといえよう。
 例え、それが搾り出すようなカスレ声だったとしても。



 日曜の朝。

「ふーん、なかなかええな、これ」
「準備期間が短かった割りに作画がんばってるわね」
「なんでー、パンツでないじゃん!」

 チルドレンの三人は、口々に自分たちの映像が流れる筈だった枠で放送がはじまったアニメの感想を口にした。

「それにしても、なんで中止になったんだろ?」
「そやな。紫穂ならなんか知ってるんちゃうの?」

 二人の視線を浴びた紫穂は、あまり表情を変えずに小首をかしげてからこう言った。

「そうね……大人にとって、子供を使うのは大変なことみたいよ───この番組のオープニングとかみたいにね」
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