絶対可憐百貨店SS集SS集

とりあえず仮ということでひとつ。
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誤差
某アメコミから設定を拝借しました。
 パンドラに“寝返った”薫。
 その薫を捕縛する為、皆本の部屋で網を張っていた葵と紫穂。
 かつて“ザ・チルドレン”としてチームを組み、いやチームという以上の強い絆で結ばれていた三人が、敵味方に分かれて対峙した。
 しかし、薫は冷静さを失わなかった。
 近くのビルの屋上に移動すると、再び二人に口を開いた。

「普通人たちがエスパーに何をしてきたのかを」

 コメリカにおいて決定的にエスパーたちへの風当たりを変えてしまった事件は、3年前におきた。
 コメリカエスパーチームが、パンドラと激突した際、互いの能力の相互干渉が予期せぬ大爆発を招いてしまったのだ。これにより現場となった街は壊滅。一般人六百名以上の死者を出し、敵味方あわせたエスパーの生存者もメアリー・フォードのみという惨事になってしまった。
 これを機に米世論はエスパーを危険視することで沸騰。あげくにはP2Pネットワークで政府側エスパーの身元が流出し、ケン・マクガイアが襲撃されて重傷を負うという事件も発生してしまう。
 事態を収拾するため、米議会は、エスパー全員の政府への登録と高レベルエスパーへの行動制限(保護観察を含む)を柱とするエスパー登録法を施行する。しかし、当然のように在野の多くのエスパーが「自由と平等に反する」として反発。これを強制的に登録しようと“狩り立てる”政府側のエスパーとの対決が頻発するが、これが周囲に(多くは物理的な)犠牲を強いたために、また、普通人の反発を招くという悪循環に陥ってしまった。

「紫穂も葵も見てほしいんだ。今まで通りの生活をしたかっただけのエスパーたちが追い詰められて、捕まって……しかも、その先がどうなるかを」

 ためらいながらも、紫穂は薫に手を伸ばし、彼女のイメージをリーディングし、葵にも伝えた。
 抵抗したエスパーが送られる“矯正施設”が、実際には洗脳を行う場であることを、二人も薄々は知っている。しかし、実際にそれを目の当たりにした薫からのイメージは圧倒的であった。ECM下で普通の人間とかわらない力のエスパーたちを、普通人の“矯正官”がうさをはらすように虐待している光景だったのだ。

「見過ごせなんかしないよ。今までパンドラがやってきたことが正しいというつもりはないけど、今、エスパーを救えるのはパンドラだけなんだ」

 この状況下、反政府エスパーを束ねる形になっているのはパンドラだ。勧誘するまでもなく、一市民にすぎなかったエスパーが政府を敵に回して頼れる相手は、彼らしかいなかったのだから。

「だから、葵、紫穂。パンドラに手を貸してとはいわない。エスパーたちを救うために、一緒に戦ってくれないか」

 そう訴えかける薫に、二人の心が揺らぐ。
 “ザ・チルドレン”だったころからいつだって、彼女はエスパーを助けようとしてきた。その純真さ、一途さは疑う余地はなかった。
 でも、それでも……

「確かに想像以上に深刻ね。でも、矯正施設なんてとんでもないって、皆本さんは言ってたわ。必ずやめさせてみせるって……」

 皆本の名前を聞いて、わずかに薫の表情は曇った。だが、反論が口をつく。

「そうだね。皆本ならなんとかしてくれる、なんでもしてくれる……桃太郎の後の皆本は、本当にそうだったよね。チルドレンの頃は、それを信じていた……。でも、今は大人になっちゃったんだよ。皆本の気持ちは信じてるけど、スーパーマンじゃない。なんでもできるわけじゃないん…!!」

 淡々とした口調で話していた薫の言葉は中断させられた。彼女の頬を銃弾が掠めたからだ。撃ったのは、紫穂である。

「ふざけないで!」
「ちょ、ちょっと紫穂!」

 葵がとめようとするが、紫穂は銃を構えたまま薫に言葉をぶつける。

「皆本さんがスーパーマンじゃないなんて、10歳の頃から知ってるわよ。でもね、いつも皆本さんは一所懸命じゃない。今の皆本さんがどうなってるか知ってるの? 手塩にかけて育てた超度7のエスパーに裏切られた主任って言われて、世間からも、バベルの中でも、どんなに辛い立場に追い込まれているのか!」

 紫穂は、皆本に向けられる悪意がどれほどのものか、いやでもわかってしまう。それは、小さな頃から人の心が読めてしまい、“この世はおとぎ話ではない”と言っていた紫穂ですら耐え切れなくなるような重圧であった。

「それでも、皆本さんはエスパーと普通人の争いをやめようと努力してるのよ! あなたを探しているのよ!」
「紫穂……」

 薫はようやくその一言を搾り出した。

「薫ちゃん。私はね。あなただから、皆本さんとの仲を認めたのよ。薫ちゃんならしょうがない。薫ちゃんなら心から祝福できる。そう思ってたのよ」

 チルドレンが成長し、チームを解散する事になった時、誰が皆本の指揮下に残るかでひと悶着あったのだが、紫穂は皆本の想い、薫の想い、両方を知っていたから、身を引いたのだ。

「それなのに、皆本さんを追い込んで、悲しませて。そんなの許せない!」

 紫穂は薫に銃を向けたまま泣いていた。
 もう薫には、紫穂に声をかけることはできなかった。
 サイコキネシスで自分の身体を浮かせていく。

「……葵は?」

 問われた彼女は紫穂と薫を交互に見て、一瞬、逡巡した。
 しかし、苦悩しながらも呟く。

「かんにんな、紫穂」

 直後、葵の姿は薫の脇へと瞬間移動する。

「紫穂、さよなら」

 葵の能力で、二人は姿を消す。
 紫穂の銃は虚空に向けられたまま、二発目が発射されることはなかった。



「この街はもうあかん!! 早く…あっ…!!」

 無線に葵の声が入る。しかし、おそらく……
 だが、今はそれを確認している時間はなかった。

「撃てよ皆本! でも、あたしがいなくなっても何も変わらない。他のエスパーたちは戦いをやめないよ」
「薫ッ!」

 薫の目の前にいる皆本は、彼女に向けてブラスターの照準を向けている。そして、その傍らには、寄り添うように紫穂の姿があった。

「紫穂。この距離なら君のサポートがなくても大丈夫だ。ここは退避してくれ」
「ううん。私、最後まで皆本さんと一緒にいるわ」

 紫穂がブラスターに手を添えた。
 薫は、その様子を複雑な表情で見ている。

「知ってる、皆本……あたしさ──」

 薫が皆本に向けてかざした右手に放電コロナのような光が走る。超能力が発揮される直前段階だ。

「やめろ…!! 薫!!」
「薫ちゃん!」

 皆本と紫穂はブラスターの引き金を引かざるをえなかった。
 至近距離で放たれたそれを、薫は避けるそぶりさえ見せずにまともに受ける。
 彼女の体が大きく弾かれていく。

「“──大好きだったよ、愛してる──”……ですって」

 届かなかった想いを、紫穂が皆本に伝える。
 しかし、それに彼がどういう反応を示したのかは、確認することはできなかった。
 直後に強烈な爆風──超能力者を一掃すべく普通人が放った核弾頭が着弾したからである。もちろん、二人とも、それから逃れることはできない。

(皆本さんを独占してごめんね、薫ちゃん。今、返すわね……)



「なんだ、京介。だいぶ間違いが多くなってるじゃないか!」

 兵部の肩にのっていた桃太郎が無邪気に騒ぐ。

「うるさい齧歯類。ちょっと黙ってろ」

 伊八号と書かれた装置から手を離した兵部は、少し考え込んだ。

(大きく揺らいできてはいる。だが……)

 結末は変わっていない。
 最終的な未来は、本当に変えられるものなのか。
 自分がやろうとしていること、不二子がやろうとしていること、皆本があがいていること。
 一体なにが正しくて、なにが間違っていて、なにが作用したのか。
 兵部にも──誰にもわからなかった。
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