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逆行皆本一代記 1週目
初出:NigtTalker GS・絶チル小ネタ掲示板
「撃てよ皆本! でも、あたしがいなくなっても何も変わらない。他のエスパーたちは戦いをやめないよ」
「薫ッ!」
皆本は破壊の女王(クイーン・オブ・カタストロフィー)──薫にブラスターの照準を向けている。
「知ってる、皆本……あたしさ──」
薫が皆本に向けてかざした右手に放電コロナのような光が走る。超能力が発揮される直前段階だ。
「やめろ…!! 薫!!」
皆本はブラスターの引き金を引かざるをえなかった。
至近距離で放たれたそれを、薫は避けるそぶりさえ見せずにまともに受ける。
「──大好きだったよ、愛してる──」
死を迎えるからこそ言えた告白は、皆本に確かに届く。
だが、皆本がその返答を口にすることはなかった。
ほんの数分後、強烈な爆風──超能力者を一掃すべく普通人が放った核弾頭が着弾したからである。
○
「なっ?」
皆本の意識が突然蘇ったのは、彼が初出勤するBABEL研究所の前であった。
(一体……)
今のは、伊─九号中尉の予知で見た光景。そして、その予知を避けることができず、実際に迎えてしまった光景だ。
なのに、今、自分がいるのは──
(タイムスリップか?)
時間跳躍能力をもつ能力者は全世界においても確認されていない。
しかし、皆本は一種の仮説を立てた。
高い能力の超能力者が密集し、激しく能力を使っていた地域に強大な核分裂エネルギーが加えられたことにより、一種の合成能力として発動したのではないかと。
「──何より、薫の意思が作用したのかもしれない」
ならば、皆本の進むべき道は決まっていた。
自分が体験したことを、二度と繰り返すわけにはいけないではないか。
「よーし、まってろよ、薫、葵、紫穂!」
○
「お固く真面目に一生懸命やって……あげく、あの三人は兵部少佐に取られちゃったのね。そう思わない?」
「じゃあ、どうしろと!!」
蕾見管理官の言葉に、皆本は反駁する。
「簡単よ〜〜。あなたがチルドレンとデキちゃえばいいいのよ」
「あっ!?」
満面の笑みでかるーくそう言い放った蕾見。
それに皆本は、呆気にとられたり────していなかった。
間の抜けた返事は、彼が瞬間的に頭を抑えたことによるものだ。
(……そうだ、思い出したぞ)
チルドレンの担当指揮官志願を要請された時に、自分自身の記憶に施した封印(それも皆本が密かに開発した、紫穂や蕾見でも破れないものだ)が解けた。蕾見の、この言葉を開錠のキーワードにしていたのである。
自分が時間逆行してきたこと、同じ悲劇を繰り返さないよう努力し、自分を変えてきたこと、それらがリーディングされれば予定が狂ってしまうと考えてのことであった。
だが、ここまでくれば、もう問題ない。
「その通りですよ、蕾見管理官!」
「あっ!?」
今度は蕾見が驚愕した。それは今までの皆本なら、頑なに拒否すると思い込んでいたのに。
「いや、やっぱりね、既成事実っていうのは重要ですよ。なーに、昔の僕はヘタレでしたが、克服しましたよ!」
そう叫びながら、どこからともなく取り出した“克服用自習教材”を、蕾見の前にぶちまける。
ロリータ、アリス、ラ・マンといった定番ものから、吾○ひでお、内○亜紀、あげくは幻のプチトマトまで並んでいた。
「え、えーと、皆本クン?」
「安心してください。僕は僕自身を鍛えましたよ! 10才でも、胸がなくても、毛がなくても、おっけー! っていうか、大歓迎! っていうか、むしろ小学生以下じゃないと女としての魅力がないね! 小学生最高! 中学以上、イラネぇ!」
皆本は一気にまくしたてた。
そのあまりに熱すぎるカミングアウトに、蕾見はドン引きで──やがて、少し冷静さを取り戻して、ようやく、重大な落とし穴に気付く。
「阿呆か! あの娘たちを大人になっても繋ぎとめるために今から手を出せって言ってるのに、今の子供のあの娘たちしか相手にできないんじゃ、意味が全然ないでしょーが!! このスカポンタン!!」
────そして、世界は再び核の炎に包まれた。
初出:NigtTalker GS・絶チル小ネタ掲示板
> 短編 > 逆行皆本一代記 2周目
逆行皆本一代記 2周目
初出:NigtTalker GS・絶チル小ネタ掲示板
【 逆行前後略 】
「お固く真面目に一生懸命やって……あげく、あの三人は兵部少佐に取られちゃったのね。そう思わない?」
「じゃあ、どうしろと!!」
蕾見管理官の言葉に、皆本は反駁する。
「簡単よ〜〜。あなたがチルドレンとデキちゃえばいいいのよ」
「あっ!?」
満面の笑みでかるーくそう言い放った蕾見。
それに皆本は、呆気にとられたり────していなかった。
間の抜けた返事は、彼が瞬間的に頭を抑えたことによるものだ。
(……そうだ、思い出したぞ)
チルドレンの担当指揮官志願を要請された時に、自分自身の記憶に施した封印(それも皆本が密かに開発した、紫穂や蕾見でも破れないものだ)が解けた。蕾見の、この言葉を開錠のキーワードにしていたのである。
自分が時間逆行してきたこと、同じ悲劇を繰り返さないよう努力し、自分を変えてきたこと、それらがリーディングされれば予定が狂ってしまうと考えてのことであった。
だが、ここまでくれば、もう問題ない。
「その通りですよ、蕾見管理官!」
「あっ!?」
今度は蕾見が驚愕した。それは今までの皆本なら、頑なに拒否すると思い込んでいたのに。
「いや、やっぱりね、既成事実っていうのは重要ですよ。なーに、昔の僕はヘタレでしたが、克服しましたよ!」
そう叫びながら、どこからともなく取り出した“克服用自習教材”を、蕾見の前にぶちまける。
SMスナイパー、悪徳の栄え、シネマジック作品といった定番ものから、団○六、刑○真芯、あげくは幻の奇譚クラブまで並んでいた。
「え、えーと、皆本クン?」
「安心してください。僕は僕自身を鍛えましたよ! 要はあいつらが僕から離れられないようにすればいいんです! 僕の言うことならなんでもきくようにすればいいんです! いっつもわがままばかりいいやがって、そうだ、調教だ!」
皆本は一気にまくしたてた。
そのあまりに熱すぎるカミングアウトに、蕾見はドン引きで──やがて、少し冷静さを取り戻して、
(ま、まあ、形式はともかく、私の考えていることと同じ……ってことでいいのかしら)
そう思って、皆本に許可を与えてしまったのが間違いだった。
勇躍、チルドレンたちをつれて六本木アル○ァインに赴いた皆本だったが、暫く後に、そこから聞こえてきたのは……
「女帝様、女神様、女王様! パンドラでもなんでも一生ついていきますから、もっとしてください〜〜」
────そして、世界は三度核の炎に包まれた。
> 短編 > 逆行皆本一代記 801周目
逆行皆本一代記 801周目
初出:NigtTalker GS・絶チル小ネタ掲示板
【 ばっさりと略 】
「その通りですよ、蕾見管理官!」
「あっ!?」
今度は蕾見が驚愕した。それは今までの皆本なら、頑なに拒否すると思い込んでいたのに。
「いや、やっぱりね、既成事実っていうのは重要ですよ。なーに、昔の僕はヘタレでしたが、克服しましたよ!」
そう叫びながら、どこからともなく取り出した“克服用自習教材”を、蕾見の前にぶちまける。
薔薇族やBadi、JUNEといった定番ものから、竹○恵子、山○純一、あげくは幻の炎多留まで並んでいた。
「え、えーと、皆本クン?」
「安心してください。僕は僕自身を鍛えましたよ! 要は兵部をこちらに引き込んでしまえばいいんです」
皆本は一気にまくしたてた。
そのあまりに熱すぎるカミングアウトに、蕾見はドン引きで──やがて、少し冷静さを取り戻して、頭を抱えた時、急に別の人間が現れた。
「まったく……」
テレポートで出現したのはその兵部であった。
「きょ、京介。ちょっと、この馬鹿になんか言ってやって」
思わず蕾見も助力を頼む。
「ふむ。君にも困ったものだ……僕の気持ちに気付くまでに、こんなに時間がかかるなんて」
「……へっ?」
蕾見を置き去りにして、二人の物語は紡がれていく。
「ごめんよ、兵部。僕、勇気をもてなくて……」
「なんで、あやまるんだい。馬鹿だな、光一」
「だって、君がツンツンしすぎるんだよ」
「ふふっ……でも、これからは、デレしか見せられないかも知れないな。そう、君を手に入れるために、僕はパンドラをつくって、気を引こうとしていていたんだから」
「ひどい人だ」
「愛は障害があったほうが燃えるものだろ?」
二人の世界に突入していく。
が、いつのまにか、それを幾重にも取り囲む人垣が。
「皆本……どーりで手を出してくれないと思ったら!」
拳を握り締める女王。
「うち、信じてたのに……」
肩を振るわせる女神。
「世の中、奇麗事じゃすまないのよ」
冷たい視線の女帝。
「認められるかああーーーッ!!」
激昂して分身する少女。
「少佐、なんで、私の想い人をとちゃうのよ〜!」
筋肉をくねくねとうねらせるマッチョマン。
etc、etc……
「殺らないでかっ!!」
敵味方合わせた超能力者軍団は、異口同音に閧の声をあげた。
────そして、首領を失ったパンドラは崩壊し、世界は平和なまま過ぎていった。
めでたしめでたし(?)
で、おしまい。
> 短編 > アニメ化秘話
アニメ化秘話
「は? 本気ですか?」
ザ・チルドレン運用主任、皆本光一はとても上司にするとは思えない口調で返答してしまった。
「当然じゃないかねネ! この子たちは我が国最高のエスパーなのだよ!」
超能力支援研究開発局(B.A.B.E.L.)局長、桐壺帝三は力説する。
政府広報の一環として、バベルの活動をテーマにした地上波TV番組を制作することが決まったのだという。そして、その主役をチルドレンにするというのだ。
「さっすが! 見る目があるぜ!」
「本当やな。これでうちもスターや」
「うふ……面白そうよね」
薫、葵、紫穂の当人達も乗り気満々。
それが皆本の不安を一層煽る。
「局長、あの事件みたいになりますよ!」
皆本が口にしたのは、電磁波義兄弟ことエレキ・照とマグ・熱人より実行された電波ジャック事件だ。あの時はチルドレンの改変された悪意の映像で、一般人(ノーマル)におけるバベルとチルドレンの印象を悪化させられそうになった。
「大丈夫やて、皆本はん。今度は妨害なんてさせへーんから」
葵の言葉にも、皆本の表情は優れない。
「……ふーん。普段のチルドレンの活動が報道される方がよっぽどダメージが大きい、ですって」
「あ、紫穂! 勝手に思考を読むなと、いつも……」
皆本は抗議の声をあげるが、遅かりし。
「なんだと、皆本! そりゃ、どういうことだ!!」
薫の念動力(サイキック)が発動し、皆本は壁にめり込んでいく。
いと哀れ。
「え、えーと、でも、顔はわからないように映像加工しますからね」
なんとか話をすすめようとする秘書官・柏木朧の声も彼には聞こえているかどうか。ともあれ、チルドレンには聞こえたようで、お仕置を終えた薫は不平をもらす。
「なんだー、それじゃ、つまんねーじゃん」
TVで大活躍して人気者、とはいかないらしいことに肩をおとしている。ことによると、母と姉へのコンプレックスがあるのかもしれない。
「しょうがないじゃない」
妙に冷めたように紫穂にも若干の落胆が見える。
大人びている彼女でも、俗っぽい気持ちはあるようだ。
しかし、紫穂としても“顔出し”によるリスクが理解できてしまうだけに、こうした言い方になるのだろう。
「でも、うちらが名声を馳せる第一歩やないか! あとで名乗りでれば一気にスターダムやで!」
「そっか! 謎の美少女の正体がついにあかされる!ってか!」
顔出しがないのに、美少女もなにもないものだと皆本は思うのだが、とにかく話を先に進めなくてはいけない。
「それで、本当にやるんですか?」
「もちろんだとも。撮影クルーもバベルの内部の者を選抜しておる。よろしく頼むぞ、皆本くん!」
「は、はぁ……」
○
そして、約一ヶ月。
ついにパイロット版が完成したということで、試写会が開かれることとなった。
「いやー、実に楽しみだね!」
桐壺局長をはじめ、バベルの幹部も集まり、いよいよそれがスクリーンに投影される。
まず初めは、どこかできいたようなワンダバな曲とともに、B.A.B.E.L-1が発進し、チルドレンは現場へと急行する。
そして、次々と事件を解決する、チルドレンの勇姿……が?
「あの後ろにうつっているのはナニかね、柏木くん?」
「この事件の時に支えそこねて墜落したセスナ機ですわ」
「あの横にうつっている炎はナニかね、柏木くん」
「この事件の時に念動力が強すぎて崩壊したビルの跡ですわ」
「あの手前にうつっている金属はナニかね、柏木くん!」
「この事件の時に皆本さんが弁償することになったF-22Jですわ」
超人的な編集の努力があったのだが、物事には限界とういものが存在する。
「なんとかならんのかね!」
「報告によりますと、これ以上はほとんどをCGでつくりなおすしかないと。局長があくまでドキュメントとして制作しろとのお達しでしたので、これ以上やるとフィクションになってしまいます」
桐壺と朧が顔を引きつらせていく中、フィルムはクライマックス?に入っていく。
超度7の特務エスパーと、運用主任であるノーマルの間には、エスパーとノーマルという垣根を越えた信頼があるのだと訴えためのシーンだ。
インタビューアがチルドレンたちに質問する。
「貴方達にとって、運用主任とはどのような方ですか?
「んー」「そやなー」「そうね」
「「「愛人?」」」
三人のハモった声に、ガコン、と何人もが椅子から転がりおちる音が聞こえた。
が、それを無視するように場面はきりかわる。
「このように、任務の後も、ザ・チルドレンとM運用主任は仲睦まじい様子を見せます」
そうナレーションをかぶせられた画面では──皆本が壁にめりこんでいた。
M運用主任という匿名が性癖をあらわしているようにしか思えない。
「これでも、一番、軽いのを選んだと報告がきています」
桐壺の機先を制して朧が手元の資料を読み上げるのとほぼ同時に試写は終わり、場内が明るくなる。
が、全員が呆然とするばかりであった。
「……柏木くん。アニメというのは予算がどのくらいかかるものなのかね」
真っ先に解決策を口にできたのは、さすがに局長だったといえよう。
例え、それが搾り出すようなカスレ声だったとしても。
○
日曜の朝。
「ふーん、なかなかええな、これ」
「準備期間が短かった割りに作画がんばってるわね」
「なんでー、パンツでないじゃん!」
チルドレンの三人は、口々に自分たちの映像が流れる筈だった枠で放送がはじまったアニメの感想を口にした。
「それにしても、なんで中止になったんだろ?」
「そやな。紫穂ならなんか知ってるんちゃうの?」
二人の視線を浴びた紫穂は、あまり表情を変えずに小首をかしげてからこう言った。
「そうね……大人にとって、子供を使うのは大変なことみたいよ───この番組のオープニングとかみたいにね」
> 短編 > 超能部隊とわたし
超能部隊とわたし
某戦記雑誌のパロディにもなってます。
> 短編 > 誤差
誤差
某アメコミから設定を拝借しました。
パンドラに“寝返った”薫。
その薫を捕縛する為、皆本の部屋で網を張っていた葵と紫穂。
かつて“ザ・チルドレン”としてチームを組み、いやチームという以上の強い絆で結ばれていた三人が、敵味方に分かれて対峙した。
しかし、薫は冷静さを失わなかった。
近くのビルの屋上に移動すると、再び二人に口を開いた。
「普通人たちがエスパーに何をしてきたのかを」
コメリカにおいて決定的にエスパーたちへの風当たりを変えてしまった事件は、3年前におきた。
コメリカエスパーチームが、パンドラと激突した際、互いの能力の相互干渉が予期せぬ大爆発を招いてしまったのだ。これにより現場となった街は壊滅。一般人六百名以上の死者を出し、敵味方あわせたエスパーの生存者もメアリー・フォードのみという惨事になってしまった。
これを機に米世論はエスパーを危険視することで沸騰。あげくにはP2Pネットワークで政府側エスパーの身元が流出し、ケン・マクガイアが襲撃されて重傷を負うという事件も発生してしまう。
事態を収拾するため、米議会は、エスパー全員の政府への登録と高レベルエスパーへの行動制限(保護観察を含む)を柱とするエスパー登録法を施行する。しかし、当然のように在野の多くのエスパーが「自由と平等に反する」として反発。これを強制的に登録しようと“狩り立てる”政府側のエスパーとの対決が頻発するが、これが周囲に(多くは物理的な)犠牲を強いたために、また、普通人の反発を招くという悪循環に陥ってしまった。
「紫穂も葵も見てほしいんだ。今まで通りの生活をしたかっただけのエスパーたちが追い詰められて、捕まって……しかも、その先がどうなるかを」
ためらいながらも、紫穂は薫に手を伸ばし、彼女のイメージをリーディングし、葵にも伝えた。
抵抗したエスパーが送られる“矯正施設”が、実際には洗脳を行う場であることを、二人も薄々は知っている。しかし、実際にそれを目の当たりにした薫からのイメージは圧倒的であった。ECM下で普通の人間とかわらない力のエスパーたちを、普通人の“矯正官”がうさをはらすように虐待している光景だったのだ。
「見過ごせなんかしないよ。今までパンドラがやってきたことが正しいというつもりはないけど、今、エスパーを救えるのはパンドラだけなんだ」
この状況下、反政府エスパーを束ねる形になっているのはパンドラだ。勧誘するまでもなく、一市民にすぎなかったエスパーが政府を敵に回して頼れる相手は、彼らしかいなかったのだから。
「だから、葵、紫穂。パンドラに手を貸してとはいわない。エスパーたちを救うために、一緒に戦ってくれないか」
そう訴えかける薫に、二人の心が揺らぐ。
“ザ・チルドレン”だったころからいつだって、彼女はエスパーを助けようとしてきた。その純真さ、一途さは疑う余地はなかった。
でも、それでも……
「確かに想像以上に深刻ね。でも、矯正施設なんてとんでもないって、皆本さんは言ってたわ。必ずやめさせてみせるって……」
皆本の名前を聞いて、わずかに薫の表情は曇った。だが、反論が口をつく。
「そうだね。皆本ならなんとかしてくれる、なんでもしてくれる……桃太郎の後の皆本は、本当にそうだったよね。チルドレンの頃は、それを信じていた……。でも、今は大人になっちゃったんだよ。皆本の気持ちは信じてるけど、スーパーマンじゃない。なんでもできるわけじゃないん…!!」
淡々とした口調で話していた薫の言葉は中断させられた。彼女の頬を銃弾が掠めたからだ。撃ったのは、紫穂である。
「ふざけないで!」
「ちょ、ちょっと紫穂!」
葵がとめようとするが、紫穂は銃を構えたまま薫に言葉をぶつける。
「皆本さんがスーパーマンじゃないなんて、10歳の頃から知ってるわよ。でもね、いつも皆本さんは一所懸命じゃない。今の皆本さんがどうなってるか知ってるの? 手塩にかけて育てた超度7のエスパーに裏切られた主任って言われて、世間からも、バベルの中でも、どんなに辛い立場に追い込まれているのか!」
紫穂は、皆本に向けられる悪意がどれほどのものか、いやでもわかってしまう。それは、小さな頃から人の心が読めてしまい、“この世はおとぎ話ではない”と言っていた紫穂ですら耐え切れなくなるような重圧であった。
「それでも、皆本さんはエスパーと普通人の争いをやめようと努力してるのよ! あなたを探しているのよ!」
「紫穂……」
薫はようやくその一言を搾り出した。
「薫ちゃん。私はね。あなただから、皆本さんとの仲を認めたのよ。薫ちゃんならしょうがない。薫ちゃんなら心から祝福できる。そう思ってたのよ」
チルドレンが成長し、チームを解散する事になった時、誰が皆本の指揮下に残るかでひと悶着あったのだが、紫穂は皆本の想い、薫の想い、両方を知っていたから、身を引いたのだ。
「それなのに、皆本さんを追い込んで、悲しませて。そんなの許せない!」
紫穂は薫に銃を向けたまま泣いていた。
もう薫には、紫穂に声をかけることはできなかった。
サイコキネシスで自分の身体を浮かせていく。
「……葵は?」
問われた彼女は紫穂と薫を交互に見て、一瞬、逡巡した。
しかし、苦悩しながらも呟く。
「かんにんな、紫穂」
直後、葵の姿は薫の脇へと瞬間移動する。
「紫穂、さよなら」
葵の能力で、二人は姿を消す。
紫穂の銃は虚空に向けられたまま、二発目が発射されることはなかった。
○
「この街はもうあかん!! 早く…あっ…!!」
無線に葵の声が入る。しかし、おそらく……
だが、今はそれを確認している時間はなかった。
「撃てよ皆本! でも、あたしがいなくなっても何も変わらない。他のエスパーたちは戦いをやめないよ」
「薫ッ!」
薫の目の前にいる皆本は、彼女に向けてブラスターの照準を向けている。そして、その傍らには、寄り添うように紫穂の姿があった。
「紫穂。この距離なら君のサポートがなくても大丈夫だ。ここは退避してくれ」
「ううん。私、最後まで皆本さんと一緒にいるわ」
紫穂がブラスターに手を添えた。
薫は、その様子を複雑な表情で見ている。
「知ってる、皆本……あたしさ──」
薫が皆本に向けてかざした右手に放電コロナのような光が走る。超能力が発揮される直前段階だ。
「やめろ…!! 薫!!」
「薫ちゃん!」
皆本と紫穂はブラスターの引き金を引かざるをえなかった。
至近距離で放たれたそれを、薫は避けるそぶりさえ見せずにまともに受ける。
彼女の体が大きく弾かれていく。
「“──大好きだったよ、愛してる──”……ですって」
届かなかった想いを、紫穂が皆本に伝える。
しかし、それに彼がどういう反応を示したのかは、確認することはできなかった。
直後に強烈な爆風──超能力者を一掃すべく普通人が放った核弾頭が着弾したからである。もちろん、二人とも、それから逃れることはできない。
(皆本さんを独占してごめんね、薫ちゃん。今、返すわね……)
○
「なんだ、京介。だいぶ間違いが多くなってるじゃないか!」
兵部の肩にのっていた桃太郎が無邪気に騒ぐ。
「うるさい齧歯類。ちょっと黙ってろ」
伊八号と書かれた装置から手を離した兵部は、少し考え込んだ。
(大きく揺らいできてはいる。だが……)
結末は変わっていない。
最終的な未来は、本当に変えられるものなのか。
自分がやろうとしていること、不二子がやろうとしていること、皆本があがいていること。
一体なにが正しくて、なにが間違っていて、なにが作用したのか。
兵部にも──誰にもわからなかった。
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