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とりあえず仮ということでひとつ。
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彼女が興味を持ったもの
初出:NigtTalker GS・絶チル小ネタ掲示板
 今日は、日曜日。
 僕、皆本光一が勤めているバベルも、僕の部下であり同居人『ザ・チルドレン』の面々が通う小学校も、等しく休みの日。
 メンバーのうち、明石薫と野上葵は買い物へ行っている。
 何でも、サイコキノである薫の欲しいものが今日発売日らしく、テレポーターの葵がそれに付き合わされたらしい。
 僕は、忙しいからと誘いを断った。
 どうせ、薫の趣味だから女性用下着のはずだし、僕が行ける場所じゃないだろうからね。
 それに、たまにはこうやってお目付け役から外れたって良いじゃないか。
 まだ、サイコメトラーの三宮紫穂も残っているんだし――
 彼女は、大人しく本を読んでいたりする。
 今日に限って一人だけ残ったのが奇妙に感じるけれど、洗濯を邪魔しないでくれるなら、まあ良いか。
 そんなことを考えていたら、ねぇ、と突然の呼びかけの後、彼女から質問が出た。
「皆本さん。そういえば賢木さんって、何の天才なの?」
「え?」
 僕は、思いがけない名前が出たことで、びっくりした。
 だって彼女は、彼を『女たらしで有名だ』と論じていたからだ。
 まさか、賢木に興味を持つとは思えなかったのだが、何かあったのだろうか。
 この前まで、合コンの件で、睨みつけるほどだったはずなのだけれど……
 でも、賢木と紫穂は同じサイコメトリー能力者だし、僕が寝込んでしまった際には協力してくれていた。
 また、僕と葵のみが京都へ出張した際、一緒に遊んだって後から聞いている。
 喧嘩するよりは仲良くなったほうが良いんだけれど……なんでまた、こんな質問を?
 発言意図を図りかね、少々考え込んだ僕を見て、弁解するかのように慌てて紫穂は続けた。
「ほら、いくら同期入局だって言っても、皆本さんは、おさんどんが良く似合う堅物だし、向こうは苦情が絶えない女性の敵だし、何があって遊びにいくような間柄を続けているのかなって、気になったのよ。コメリカ時代からの知り合いってことは聞いているけれど……でも、愛想尽かしてもいいじゃない?」
 彼女の言葉には、色々気になる言葉が含まれている。
 頭痛がするけれど、取りあえず一番気になるところのみ、僕は、逆に質問を返した。
「おさんどんが似合うって……それは褒めているのか?」
 確かに僕は、紫穂を含めチルドレン全員の家政夫みたいなこともしている。
 しかしそれは、ここが僕の家で、彼女らが勝手に住み着いている結果だ。
 僕は彼女らの上司であり、決して彼女らの世話役では無いはずなんだけど……
 不機嫌となった僕を見ても、彼女は顔色を変えなかった。
 あまつさえ、こんな答えを返してくる。
「そうよ。何か問題でも?」
 僕が上司だと言うことを、どこかに忘れてないか?
 少々つっけんどんに、そして正直に彼女が返したため、僕は、二の句が告げられなかった。
 考えるだに恐ろしいことなのだが、たぶん、彼女はその意見を変えることは無いだろう。
 そうでなければ、いくら小学生とは言え、ほとんどの衣服を異性に洗濯させることはしないだろうから。
 いったい、何を考えているのやら。
 僕は、はぁ、と溜め息を吐きながら、左のこめかみを押さえた。
 ……大丈夫、鼓動は正常だし、頭痛もそれほどは無い。
 少しの間、沈黙が横たわり、彼女が不安そうな顔を見せたころになって、僕は思い出したかのように、こう言った。
「……さあてね、何で付き合ってるのか、僕だって分からないよ。でも、あいつも、ああ見えて良いやつなんだからね」
 ――君だって、見た目と内心が違うじゃないか。
 そんな言葉を喉の奥に飲み込んで、ちらりと彼女を見ると、予想通りに面白くなさそうな顔をし始めている。
 そして紫穂は、案の定文句を言ってきた。
「そうよ、それ! 何で賢木さんが『良いやつ』なわけ? 私のほうが超度高いし、私のほうが、ずっと皆本さんのこ……それはともかく、最初の質問は、どうなったのかしら?」
「最初って?」
 ちょっと言いにくいため、少々とぼけた僕の内心を把握しているらしい彼女は、そのサイコメトラー能力を発動させながら、にこやかに言う。
「ちゃんと答えてよね。賢木さんは、何の天才なわけ? そして、何で皆本さんと付き合っているの?」
「『最初だけ』じゃないんじゃ……」
「これで良いの! で、答えは? ちゃんと答えないと私……」
 聞いている途中で嫌な予感が背中を走り、僕は慌てて彼女の言葉をさえぎった。
「分かった! 答えるから、全力で透視するのは却下だからな!!」
「あら、そう? それは残念ね」
 この、小悪魔め!!
 僕は、ささやかな防御さえ許されぬ相手に対し、自分が知る限りの情報を提供した。
「やつは、医者だ。それに、知ってるだろ? あいつの年齢。わずか二十二歳で医者になってるってのは、常識では天才って言われないのか? 日本の医学会では、ありえないはずの年齢なんだけどさ」
「……そう言えば、そうね」
 少々考えてから、紫穂が頷く。
 しかし、すぐに首をかしげながら、こう質問してくる。
「でも、どうやって医師免許を取ったの? サイコメトラーだと、何か特典があったりするの?」
「いや、何も無いよ。普通に試験を受けて、普通に合格しただけだよ。まあ、サイコメトラーだから、多少は診察に有利かもしれないけれど、それだけで医者になれるはずが無い。あの齢で、必要となる膨大な知識を我が物としてるからこその天才なのさ」
 こうやって言うと、他人のことながら、あいつを誇らしく感じる。
 性格は少々難ありみ見えるけれど、それでも信じるに足る仲間の一人だってことには変わりは無い。
 思わず笑みがこぼれた僕に、紫穂は、更なる質問をしてきた。
「ってことは、飛び級もしてるのかしら?」
「当然してるさ。でなければ、いくらコメリカで免許申請したと言っても、試験そのものが受けられないからね」
「なるほど……」
 やつがコメリカへ行った経緯や留学中の態度については、まあ、僕としても色々言いたいことがあるけども、それで医師免許取得が早まったのだから、詳しいことは彼女へは言わないほうが良いんだろうなぁ。
 少しばかり内容をはしょったけれど、僕の説明にようやく納得したのか、彼女は、じっと考えてから、ぽつんと言った。
「女性に対する興味が高じて医者になったのね」
「はあ?」
 それを聞いた僕は、つい素っ頓狂な声をあげてしまった。
 どこがどーなったら、そんな答えになるんでしょうか?
 無言の問いに、彼女は、あっさりと言った。
「だって、そうでなければ説明つかないもの。不真面目だし、勉強嫌いみたいだし、とても医者になれるような天才だとは思えないわ。研究熱心な皆本さんとは、全然違うじゃないの」
「いや、あの態度も、やつなりの努力の成果だってば。同じサイコメトラーとして、よっくと考えてみてくれ。いくら医者だからって言われても、見習い時期なら特にだけれど、サイコメトラーに診察してもらうってことが、どのような意味を持つのかを」
「あっ……」
 ここに至って、ようやく彼女も気付いたらしい。
 確かに診察時、サイコメトラーなら、異常はほとんど見逃さないだろう。
 しかし、それ以外、知られたくないことまでも同時に透視されてしまうとしたら、躊躇されてしまう方が多い。
 超能力者が多いバベル内で診察しているから、セクハラのほうしか問題として聞こえてこないけれど、そうでなかったら、患者の数は激減しているはずだ。
 バベルでも普通人は多いけど、それでも繁盛しているのは、彼の、あの一見へらへらした明るい態度が大きい。
 紫穂もそうだけど、高超度のサイコメトラーは、何かしら人格に問題を抱えてしまうケースが多いからね。
 いわれの無い中傷や、いじめの対象になったら、屈折するのも当然だろう。
 けれど、あいつはそうじゃない。
 おちゃらけた態度が、いつから身に着いたものなのかは、僕も知らない。
 セクハラが多いのは確かに問題だけれど、でも、それ以上に他人のことを思いやれる人間。
 それを感じているからこそ、あの彼を信用出来るんだ。
 僕の視線に、今度こそ納得した様子で、紫穂は笑みを返した。
「そうね。私もまだまだみたい。こんなことさえ見抜けないんだから。もっともっと心理面を勉強しないと駄目よね」
「いや、まだそんなことにまで精通しなくていーから」
 彼女は、まだ十歳。
 小学生のうちから深層心理まで把握するような人間には、出来ればなってほしくないんですが……
 男を手玉に取る、悪女になるのは勘弁してください。
 そう思う僕の突っ込みを無視し、彼女は大きく頷く。
「と言うことは、私も皆本さんの体に興味を持てば、医者になれるのかしら? ねぇねぇ。手始めに、さっき皆本さんが自分で言った『精通』から見たいなー」
 期待でキラキラと目を輝かせた彼女の口から出る、年齢に不釣合いな内容。
 僕は、大きな声で怒鳴った。
「何を考えているんだっ!? 君はまだ、ガキじゃないかっ!!」
「あら、だからこそ『勉強』しなければならないんじゃないのよ」
 が、いつもなら怒るはずの言葉にも、彼女はあっさりと反論してきた。
 逆上したなら付け入る隙もあるんだけれど、いかんせん、邪悪な笑みをたたえたままの紫穂を相手にするのは、かなり危険だ。
 にこやかに微笑みながら、彼女は、じりじりと僕に詰め寄ってくる。
「私が残ったのはね、今日、あの日だからなの。だから、大丈夫なのよ」
「な、何が大丈夫なんだ……」
「あら、レディにそれを言わせるつもり?」
 くそっ、何で僕が小学生相手にこんなことされなくちゃいけないんだ?
 変態少佐ならともかく、ガキに欲情するほど僕は落ちぶれていないはずだっ!!
 事態打開のため、情けなくも玄関目指して逃げ出そうとした瞬間、見計らったかのように、僕の頭に何かが降ってくる。
「がっ!!」
 そして、痛みで目を回した僕は、身動き出来ない状態で、頬を叩かれ無理やり起こされてしまった。
「皆本、早く起きろよ。疲れて腹減ったんだからさー」
「疲れたのは、ウチのほうやで? 何で下着一枚買うためだけに、十数ヵ所もまわらへんとあかんのや」
 どうやら、僕の頭上に降ってきたのは、救いの天使ならぬ、破壊の魔女たちだったらしい。
 さっきよりは状況がマシなのかもしれないけれど、それでも改善したとは言いにくいな。
 状況を整理し、僕の目眩が治まるまでの間、葵が紫穂へ問いかけている。
「紫穂、体調大丈夫なん? 皆本にやらしーことされてへんかった?」
「もう大丈夫よ。心配してくれてありがとね」
 紫穂が、いかにも取り繕った笑顔で答えてるのは、内心不満だったからなのでしょーか?
 質問した葵のほうが、笑顔に気圧されてちょっとビビリ気味になってしまっている。
 そんな、表面的には微笑ましい光景を横目で見ながら、薫が僕を虐め続ける。
「ほらほら、飯を作らないと、もっと圧力かけるぞー」
 通常よりは弱いけど、それでも僕の体にはサイコキネシスによる強い圧力が掛かっている。
 何で、いつもこうなるんだ?
 僕の窮状を見かねたように、紫穂は薫へ提案した。
「あら、薫ちゃん。皆本さん相手にするのは、手を洗ってからのほうが良いんじゃない? 買い物の成果を確認するためにも、洗面所へ行ったきたらどう?」
 そうそう、と葵も同調する。
「せやな。で、その間、皆本は飯を作ると」
「そうだなー。じゃあメシ、よろしくね」
「確定かよっ!?」
 開放され、ほっとしたの束の間、僕の叫びは当然無視されてしまった。
 しかも、僕の手伝いをしようとする者は、誰も居ない。
 雛鳥よろしく、後はご飯と騒ぐだけだ。
 窓から外を見ると、既に夕方遅くとなってきたこともあり、仕方なく、僕は台所へ向かった。
 まったく、これじゃあ、おさんどんと言われても仕方ないかもなぁ。
 と、他の二人が洗面所へ向かった隙に、隠れるようにして紫穂が台所へ素早く入ってきた。
 何の用か、と問い掛けもさせず、一方的に手短な言葉を告げる。
「賢木さんが医者になれるなら、私だってなれるよね。そうしたら毎晩、貴方だけの『白衣の天使』になってあげるからね」
 そう言って、さっと部屋の向こう側へと去っていく彼女。
 先ほどの乱入で、言いたいことが言えなかったからだと思うけど、それがこんな内容だとは……
「まったく、何を考えているのやら」
 興味の対象や、話し相手が増えるのは、彼女たちの成長にとって好ましいことだ。
 でも、その結果、僕に興味を持ってしまうのは、何というか、本末転倒って感じがする。
 僕には、あの予知、薫と僕の対峙シーンが、どうしても忘れられないんだ。
 僕が居なければ、あるいは、あれが回避出来るのかも。
 そう思うたび、自殺とか蒸発とか、好ましくない単語が脳裏をよぎる。
 まったくもって、不健全な発想だな。
 料理作りながら、こんなことを考えているようでは、とてもチルドレンを指揮し続けるなんてこと出来やしないだろう。
 自分で作ったやつながら、美味そうな匂いを漂わせているそれを運びつつ、僕は大声で呼びかけた。
「ほら、晩飯作ったから、さっさと来いよ」
 とたんに、それなりに身だしなみを整えた三人が、ぱたぱたと走ってきてテーブルに着く。
「いただきまーす」
 四人で声を合わせての、あいさつ。
 以前はこんなこと、僕以外は言わなかったけれど、学校で言わされているから、三人とも自然と言ってくれるようになってきた。
 こんな風に、自然に成長してくれれば、それで良いんだよな。
 彼女らの成長が嬉しく、つい、僕の顔はほころんでいたらしい。
 薫が、僕の顔を見て妙な顔をする。
「何だ、皆本。やけに嬉しそうじゃねーか。あたしたちが居ない間、紫穂と何かあったのか?」
「えっ、そうなん!? 皆本はんのフケツッ!!」
 和やかだった空気が、一瞬にして変わる。
「そんなことあるかー!!」
 うわー修羅場かよ、と紫穂に助けを求めると、当の紫穂は、いつもの無表情な顔で、さらりと告げた。
「何も無いわよ。ただ、皆本さんの治療を賢木さんに任せると、女たらしまで移っちゃうんじゃないかなとは話してたけど?」
 それ、事実と違うって!!
 そう言って彼女の発言を正す暇もなく、僕の体が床にめり込む。
「これ以上、女たらしになるなんてズルいぞっ!!」
「皆本はんが、もっとフケツになるなんて嫌やー!」
 お、お前ら、食事中なんだぞ?
 お仕置きで、ふわふわと空中に浮かんだほこりを手で払いながら、紫穂は続けた。
「大丈夫。そうならないように、彼の治療は、同じサイコメトラーの私が一手に引き受けるから安心してね」
 それを聞き、二人もしぶしぶながら矛を収める。
「紫穂なら、まあ、大丈夫かな」
「ちょっと心配やけど、賢木はんよりはマシかも」
 賢木、誤解されまくったままだなぁ……
 彼に、ほんのちょっと同情しながらも、僕はようやく起き上がる。
 見事に椅子が大破したため、中腰で立ちながらの食事再開だ。
 この体勢って、明日に響くんだよなぁ。
 僕のつらい内心を見透かしたのか、紫穂が慰めの声を発する。
「後でマッサージするから、心配しなくても良いわよ」
 とたんに、あたしもやるー、との分かってなさそうな声を発する他の二人。
 それを聞き、僕は、何だか分からないけれど寒気を覚えた。
 そして、紫穂と葵はともかく、薫のサイコキネシスによるマッサージで大ダメージを受けた僕は賢木の世話になり、『また彼女たちか。お前もロリ好きだなぁ』と揶揄されてしまったのだった。
 どちくしょー! そんなこと言われるのなら、金輪際お前の擁護なんかしてやらないからなっ!
 今後は、紫穂の診察を受けてやるっ!!
 そう思った瞬間、これら一連の出来事は、賢木の評価を落として相対的に自分たちのを良くしようとの、紫穂の悪巧みなのかもしれないと考えてしまった。
 そんなことはないはず。
 悪巧みを考えたにしては、あの流れは、いきあたりばったりだったように思うえるが……
 そうは考えつつも、可能性を完全否定することが出来ず、僕は、病室のベッドで盛大な溜め息を吐いたのだった。




 ―終―

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