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嬉し楽しや夏休み(野分ほたるさんver)
初出:NigtTalker GS・絶チル小ネタ掲示板
イラスト:サスケ様
「皆本さん、どこ見てるんですか?」
プールからあがる直前、なにやら視線を感じた野分ほたるは、その視線の持ち主を断定してそう言った。
口調は幾分すねたような怒ったような響きが含まれているものの、頬には朱がさしていたりと、その顔はあくまでにこやかだ。
なにせ見ているだろう人は、野分の恋人候補ナンバーワン、皆本光一その人なのだから。
「えっ? い、いや、どこをって……べつに何も見てないよ?」
突然言われたためか、いささか慌てた風の答え。
それがかえって彼らしく、野分はくすっと笑った。
「隠さなくても大丈夫ですよ。誰も覗いていませんから」
こっそりテレパシー能力を使い、周囲の状況確認は済んでいた。
後は彼の心を確認するだけだが、それを確かめるには勇気がいる。
彼の言葉で、ああ、やっぱり見てくれたんだとの安堵感と、見られて少々恥ずかしいとの複雑な感情が野分の心に浮かぶ。
そして、次第に増していく次のような幸福感。
それにしても、彼を誘えたのは幸運だった――と。
野分は、こんなこともあろうかと用意していた水着を余すことなく視線にさらしながら、再度、こうなった経緯を述懐した。
いつもバベルの受付として働いている野分は、たとえお盆であろうとも、休みを取ることがなかなか難しい。
日々訪問者の監視を続けなければならず、ストレスを感じることもある。
いくら自分が高レベルエスパーだとしても、いや、高レベルエスパー社会人だからこその苦労が多々あるのだ。
不愉快な人が来たときは、求められても能力を使わずに過ごせた学生時代が懐かしく感じられる。
しかし、スケジュールの都合さえつけば、こうやって平日に休みを取ることが出来るのは、社会人ならではだ。
更に言えば、職員専用施設で人目を気にせず優雅に泳ぎを楽しむことが出来たりするのも、良い話である。
それまでは、他人からの不愉快な思考を我慢しなければならなかったのだから。
この少子高齢化時代に良い伴侶を見付けるため、日夜努力している野分にとって、今日の休暇は貴重な時間だった。
何せ、ぴちぴちした肢体を彼へ見せつけられる絶好の機会なのだから!
きゅっと締まったお腹に、すらっと伸びた手足。
安産型とも言われる豊かなヒップと、嫌みかとも称される女性美あふれたバスト。
それらを包むのは、決して派手ではないものの、少々布地が足りない水着。
股間の切れ込みは鋭く、大事なところしか隠していない。
当然ながら、脚線美は産毛処理済だ。
胸も、曲線の下半分しか隠されておらず、ふくらみが大きすぎて下側に出来る悩ましげな谷間が見えてしまっている。
残された後ろ部分も大きく開いており、無防備な肩から背中から丸見えだ。
パッと見、どこにでもある一体型水着と見えながらも、よく見れば誘っているとしか思えないエッチな水着を野分は着ていた。
もちろん、うつむき加減の微笑みで、更に破壊力が増していることも考慮済みである。
時間が無く、海にこそ行けなかったが、職員用に解放されているプールへ彼を誘い、共に来れたのは幸運以外の何物でもない。
同僚ではあるが、他のチームを指揮し、忙しい日々を送っている彼。
頭脳明晰であり、ルックスもまとも。
更に言えば、体型だって身なりだって普通なため、有望株として彼を狙う女性は多い。
なのに、自分一人のため、貴重な夏期休暇を使ってプールで共に過ごしてくれるなど、望んでもありえないほどで、まるで夢ではないかと思えてしまう。
夢でないと実感出来るのは、彼の視線があるから。
ここでもう一押ししておけば、彼の夢に出演することさえ可能かもしれない――
視線を受け、身じろぎの代わりにお尻を悩ましく左右へ振った野分は、しかし、どこかその視線が熱くないことも感じていた。
有り体に言えば、凝視しているとは感じられなかったのである。
女の子にこんなことさせておいて、見ないとは何事かしら?
そう思った野分は、少々残念ながらも、ゆっくり振り返って正面から彼を見た。
彼の顔からはいささか奇妙な感じを受けるが、それは光の反射のせいと思い、もう一度問いかける。
「あの、どこを見ているんですか? 皆本さん? 聞いてます?」
未だプールで浮かんでいる皆本は、彼女の柔らかな詰問を受け、困惑した答えを返した。
「いや、だからどこをって言われても、眼鏡外しているから、ぼんやりとしか見えないんだけど……何か問題でも?」
「!? え、えっと、その、あまり見えないんですか? と言うか、泳ぐためのゴーグルとかは……」
ショックを受けている野分の呟きを、皆本は、不思議そうに聞いていた。
「プールだしね、泳ぐときは眼鏡外すのが普通じゃないのかな? ゴーグルと言われても、バベルのプールだから、無くても差し支えないだろう?」
皆本は、子供時分から勉強に打ち込んでいたせいか、度の強い眼鏡を掛けている。
普段はあまり意識していないため、思いっきりその事実を忘れていたのは、明らかな野分の失策だ。
先ほどの奇妙な感じは眼鏡が無いせいと理解した野分は、なんで気付かなかったのかしら、と肩を落としながら、それでもがっかりを感じさせないような口調で彼へ応じた。
「そ、そうです……よね。眼鏡は外すのが……でも、見えてないと、危険じゃないんですか?」
そんな問いを発した野分の、頭をくらくらさせている様子に気付いていないのか、ゆったりとプール縁へ近付きながら皆本は言う。
「一人じゃないんだし、平気だって。それに、一人で泳ぐのも慣れてるしね」
どこか自嘲気味な響き。
皆本は、頭脳明晰が災いして孤独な子供時代を送っていた。
長期の休みの際はおろか、平日の放課後でさえ、クラスメートから遊びに誘われることなど皆無に等しい。
なので、こうやって女性に泳ぎに誘われても、どう接したらよいか分かってなかったりするのだ。
言葉の意味するところを察し、野分はハッとして、それから彼へ泳ぎ近寄ろうとした。
いますぐ彼を抱きしめたい。
胸の奥が、キュンとうずく。
彼を驚かせないよう、ゆっくりと水に身を浸し、それからすいと泳ごうとした野分だったが、大事な大事な静寂は、突如として振ってきた大声に破られてしまった。
「皆本ぉ! 探したんだぞ!!」
「どこにもおらへんから、局長締め上げてしもーたやんか!」
「私たちに隠れて、黙ってこんなところで裸さらしているなんて、まったく……」
ドボンと三つの水音をたてながら彼の近くへ落下したのは、用意周到にも水着姿となった三人の小悪魔。
突然しがみつかれ溺れそうになった皆本を、能力でふわりと縁へ運びやった三人組『ザ・チルドレン』の面々は、ちらりと野分を見て、それからおもむろに皆本へ向かい騒ぎ立て始めた。
「あたしたちが可愛いからって、もっこりさせちゃセクハラだぞー?」
「う、ウチは見とうないんやからな! で、でも、皆本はんがこんな格好しとるんやからして……」
「傷の手当てなんかで散々見せているじゃないの、何恥ずかしがってるのかしらねぇ」
早口でまくし立てられ、もはや皆本は、呆然とする野分へ意識を向けることなど出来ない状況になってしまっている。
うまく言葉が出てこず、はしたなくも口をぱくぱくさせている野分の頭片隅へ、彼女の耳が、この状況を整理する単語を何とか拾い上げて伝えた。
「学校にも夏休みってものがあるんだから、自分だけ休もうって言ったって、そうはいかないわよ」
確か、チルドレンたちは少し前から小学校に通い始めていて、それで昼間彼の時間に余裕が出来て、でも社会人と違い、学生には長期の夏休みがあって……
一緒にチームを組む常磐さえも出し抜いて、上手く彼を誘ったはずだったが、このような展開になるとは、とても信じられない。
今にも水底に沈みこんでいきそうな絶望感を味わい、野分は叫びたくなった。
『夏休みなんて嬉しくないわっ!』
しかし、言いたくてもそれが彼に聞こえる可能性を考えてしまい、ひとり野分はプールの中でブルーな気分となるのであった。
―終―
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