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嬉し楽しや夏休み(常磐奈津子さんver)
初出:NigtTalker GS・絶チル小ネタ掲示板
イラスト:はっかい。様
「あ、いたいたぁ!」
嬉しそうな弾む声。
女性特有の甲高い、しかし柔らかい声が水面に反射してキラキラと輝きながら周囲へ響いていく。
やけに熱い日差しを右手で遮りながら、そう言ってにこやかに目を細めた女性は、名を常磐奈津子といった。
彼女は、日本政府の機関『バベル』にて働く高レベルエスパーの一人にして、チーム『ダブルフェイス』の片割れでもある。
普段の仕事が受付であることから、なかなか昼間に太陽を拝むことは出来ないが、今日は特別。
今日の常磐は、夏期休暇を取ってバベル管理のリゾート地へやってきていたのだから。
真白い砂浜、透き通るような青い海、高い太陽と、それら自然の恵みを存分に堪能する若くて綺麗な女性――
セクハラであろうがなかろうが、とかく絵になること間違いなしの光景である。
しかも、ピチピチした若干二十歳の健康的な素肌は、水着で隠されてはいるものの、ビキニタイプ水着なのでほとんどが露出されていたりする。
腰回りもエロチックだが、特にたゆんたゆんと揺れるスケールオーバー気味な胸部は、水着布地を内側から破裂させる勢いで膨らんでおり、官能的なことこの上ない。
足首までしか水に浸かっていないので、その気であればすぐにでも駆け出していけるのに、彼女はゆっくりと歩いている。
まるで、肢体を見せつけるかのような足取り。
ファッションモデルでも十分に通用するかと見える彼女は、持って生まれた魅力を存分に発揮させようとしているのだが……
「もうっ、何でこっち見てくれないよっ!」
悲しいかな、先ほど着替えのために別れた連れあい男性は、他の場所へ目を向けていた。
「皆本さぁーん! こっちこっち!! もうっ、早く来ないとナンパされちゃうでしょ?」
この場所は、バベル職員のための専用保養地――更に言えば今現在は二人きり――なので、ナンパされることは全くないはずだが、一秒でも早く自分に目を向けて欲しく、彼女はそう叫んで手を振る。
皆本光一は同じバベルの同僚で、常磐の恋人候補ナンバーワンだ。
チームの片割れ、野分ほたるも彼へちょっかい掛けているようだが、この悩殺水着を見れば、彼だって見惚れてくれるに違いないと常磐は思っている。
なにせ、ここの使用規約に違反しないよう『バベル』のロゴ入りとなってはいるものの、この日のために用意した価値ある一品なのだ。
さすがに直接的すぎと思えて白地には出来なかったが、オレンジの水着は自分でも目に眩しく、エッチに感じられ、十分に相手をその気にさせるだろうとの自信がある。
あとは、彼への攻勢を掛けるだけなのだが、期待で胸の先端がハッキリ浮かび上がってしまっているのを自覚しながらの呼び声は、しかし、これも悲しいことに否定的な言葉しかこだまを返さなかった。
「えっ? あっ、す、すまない。ちょっと動けそうにないんだけれど……」
皆本が、こちらを一瞥しただけで謝罪の言葉を送ってよこす。
常磐はそれを聞き、反射的に怒ろうとしたものの、彼の姿を再度よっくと見た途端、肩を落として納得してしまった。
そこには、まるで子供にまとわりつかれたお父さんといった風の彼が居たからだ。
先ほどまでは居なかったはずなのに、いつ来たのだろう。
そして、どこから嗅ぎつけたのだろう?
ねーねぇと、あたかも猫のように彼へじゃれ付く三人組は、言わずとしれたチーム『ザ・チルドレン』の面々であった。
彼が指揮する、日本随一の能力を持ったエスパーチームは、当然のことながら二人と同じくバベル所属であり、また、ここはバベルの保養地なのだから、これも当然のごとく彼女らへも使用許可が出る。
とは言え、邪魔されないよう局長にまで探りを入れた他人の休暇動向に、彼女らがここへ来る計画は入っていなかったはず。
また、この場所を突き止めるにも相当時間が掛かるはずだ。
テレポーターが居るため、その気になればどこへでも素早く移動することは可能だろうが、それにしたって午前中から来れるものなのだろうか?
今日は平日で、しかもまだお昼にさえなってないのだから、三人は学校に居るはずなのにっ!
そんな風に少々不満な顔を堪えながら常磐が思案していると、それを素早く感じ取ったのか、チルドレンの一人、野上葵が彼女へニヤッと笑顔を向ける。
そして、さも当然とばかりに、楽しげな声――常磐にとっては悪魔の囁きに似た声――が発せられた。
「子供にも、夏休みってもんがあるんやで?」
常磐は、そのことを忘れていた自分に愕然となった。
そ、そうだった……
僅か数年前までは、自分もその恩恵を受けていたではないか!
バベルに就職した際、主に受付として働くことになったため、たとえお盆の真っ最中であろうとも休めない体制に、常磐は内心不満を持ったことがある。
しかしその反面、スケジュールを調整さえすれば、このように平日、堂々と休むことが出来ることもあり、バランスは取れるわねと妙に納得したのも事実である。
今日のように、好みの男性と共にこっそりデートを楽しむため夏期休暇を取るのは、別に非常識ではないと思うのだが……
お邪魔虫の児童も夏休みであることに気付かなかったのは、社会人となった弊害なのかもしれない。
ああ、懐かしいかな夏休み、恨めしいかな夏休み!
常磐は、これで今日のお楽しみもこれまでのようにお流れなのね、と嬉しさが波にさらわれていくのを感じるのだった。
―終―
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