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> 短編 > ただ、愛のために
ただ、愛のために
初出:NigtTalker GS・絶チル小ネタ掲示板
眼鏡の男は一人、室内で悩んでいた。
大きな窓からは、いつものようにさんさんと光が差し込み、完璧な手入れがなされている、豪華な内装の快適な空間へ身を置いているのにもかかわらず、だ。
目前の机には、一枚の紙切れが乗っている。
単なるメモにしてはぎっしりと、報告書にしては乱雑な文字の羅列としか見えないものだが、男の態度からは、非常に重要な事柄が書いてあるのだろうと察せられる。
たぶん、何回も修正を書き加えたのだろう。
一部が二重線で上書きされていたり、疑問符やレ点チェックがあちこちへ書き込まれていたりと、読み難いことこのうえない。
しかし、僅かな隙間でさえ埋めようとしてか、男は数分掛けて悩んだ結果をまたまた小さく書き込むと、大事そうにスーツの胸ポケットへとそれをしまいこんだ。
部屋では、通常のスパイ防止装置が作動しているほか、超能力妨害装置さえもが作動している。
また、最新型である個人用携帯妨害装置も身に着けているのだが、それでも安心出来ないとばかりに、何回かスーツの上からメモと機械を叩いて存在を確認すると、達成感で疲れが急に襲ってきたのか、男は眼鏡を外して目頭を押さえた。
それを待っていたかのように、ドアが来訪を告げる。
男は、慌てて眼鏡を掛けなおし、威厳を取り繕った。
「三宮長官。そろそろ会議の時間です」
「たしか議題は、『エスパー犯罪者の規制について』だったはずだね」
椅子から一歩も動かず、鋭い眼光を来客者――自分の秘書なのだが――へ向けた男、警察庁長官三宮は、僅かに拳に力を込めながら即座に言い返した。
「はい。法運用による規制強化と警察の機能強化が主題であります。皆様、お待ちかねであります」
威圧するかの如き口調に慣れているのか、秘書は並みの人間ならたじろぐであろうそれを受け流すと、平然と口を開く。
言外には、やんわりとだが時間厳守だぞと厭味さえ付いている。
公務員たるもの、そして、いやしくも法の番人であり責任者であるのならば、それくらい常識だろうと当の本人から叩き込まれているのだから、この態度は当たり前である。
そうだったな、と小さく溜息を吐き、すっくと立ち上がった三宮は、態度を仕事のそれに戻しながら、こう考える。
――もし、私が犯罪を計画していると知ったら、君はどうするかね?
無論、聞かなくとも分かっている問いである。
立場からも、一人の日本国民としても、制定された法は、法治国家に住む人間ならば優先されるべき事項なのだから。
そして彼は、会議が終わったら結果を加味してメモ内容を再度検討し、今日中に清書したいと考えながら、ずいと歩き出した。
この会議は、エスパーである愛娘にも関係してくるのだ。
いくら娘を愛していても、それによって議題の方向性を見誤るわけにはいかないと、彼は秘書に案内させながらそうも思う。
何があろうとも、国民を守るのが警察の義務なのだから――
いつもは気にしない靴音が、今日の三宮には、やけに大きく響く気がした。
そして夜もふけ、帰宅した三宮は、妻が待つリビングへ向かった。
手には、昼間したためたメモがある。
どうやら、内容は纏まったらしい。
「お帰りなさい。あの娘は、今日も皆本さんのお宅ですよ」
あの娘とは、三宮夫妻の一人娘、紫穂のことで、現在は日本国内務省にある超能力機関『バベル』の職員となっている。
彼女は幼少時から高い能力を発現させていたことから、色々あってそこへ預けざるを得なかったのだが、三宮もその妻も、決して彼女を嫌ってるわけでは無いため、ずいぶんと寂しい思いをしていた。
また、皆本とは、紫穂が所属するエスパーチームの男性指揮官だ。
いくら紫穂がまだ小学生であり、ずいぶんと彼になついているとはいえ、一緒に住むことはいかがなものかと思ってしまう。
チーム全員で彼の部屋へ転がり込んでるため、万が一の心配は少ないし、何より、バベル内部でだけ育っていた頃よりずいぶんと表情の明るくなった紫穂のことを思えば、行くなとも言えない。
少し複雑な思いで夫を迎え入れた妻は、それでも彼を気遣い、すぐに椅子から立ち上がった。
テーブル上には、弱めのアルコール飲料と好物のつまみが既に準備されているため、あとは彼の着替えを手伝うだけだ。
だが三宮は、いつもしてもらっているそれを手で制すると、椅子に座るよう妻へ促した。
「あの娘が居ないなら、その方が都合良い」
その言葉と態度に困惑しながらもテーブルへ戻った妻は、すいと出された一枚の紙を読んで、うっ、と声を詰まらせてしまった。
「あなた、これ、本当によろしいのですか? あの娘の了承も得ず、しかもあなたの立場でこれは……」
反論は、当然のように予期していたのだろう。
彼は、分かっている、と簡潔に答えると、もう一回よく読んで欲しいとお願いした。
そして、読み終わってなお顔を曇らせたままな妻に向かい、こう告げる。
「確かに、これは現行の法律では犯罪となる。私の立場では、国民の幸せと法を守らねばならない義務があるが、しかし……私は一個人の親として、子供の幸せをも守らねばならないのだよ。お前なら、分かってくれるな」
「でも、それでもこのような……この前も、危険な目にあわせたと後悔してらしたではありませんか」
この前とは、犯罪捜査に紫穂を参加させたときの話だ。
他のサイコメトリー能力者では解決の糸口が見付けられない事件について、日本最高のサイコメトリー能力保持者である彼女へ、バベル局長を介して極秘裏に協力要請をしたのだが、その最中、彼女は銃口を向けられてしまっていた。
結果的に無傷で収まったとはいえ、あの一件は、忘れようにも忘れられない。
公私混同を避ける意味でも捜査中は厳格な態度を取っていた三宮だが、彼女の無事が確認出来たときは、人目もはばからず抱きしめるほど安堵したものだ。
苦い顔で妻の言葉に頷いた彼は、それでもこう続けた。
「それだからこそ、だ。娘は――紫穂は、日本に三人しか居ない超度七エスパーの一人だ。日本国民へ大きな責任がある。が、しかし、まだ十歳。と言うか、もう十歳と言うべきだろうか。だからこそ、今のうちに愛情による手を打たねばならんのだよ」
「あなた……」
「今日の会議でも、超能力犯罪に対しての対策が話し合われたよ。内務省付きのバベルに頼らず、自前でエスパーチームを採用すべきではないか、とな。彼らの予知に基づいて動くばかりでは、組織としての独立性が保てないのは自明の理。むろん、私もそれに賛成せざるを得なかった。だがな、もう一つ、エスパーの監視体制強化も議題にのぼったのだよ。そうなったなら、あの娘も……」
仕事のことは一切家庭に持ち込まないことを自慢していた三宮が、このように妻へ話を漏らすのは異例のことだ。
だからこそ、この紙に書いてあることの重大さが、ずしりと妻の肩にも圧し掛かってくる。
妻の表情が一層暗くなったのを見て、三宮は安心させようと努めて優しく語りかけた。
「大丈夫だ。今まで、あの娘があんなにも明るく過ごしているのを見たことがあるかね? 同程度の力を持つチームメンバーとしか、しかも表面上でしか仲良くしなかった紫穂が、今夜も彼の部屋へ行っているのだから、何も問題はあるまい」
「問題はあります! その、チームでは取っ組み合いが絶えないとか聞いていますし……」
紫穂が所属するチームの構成員は、上司である皆本を除き、みな同じ年の女の子たちだ。
能力のせいで特殊な育ち方をしてしまった彼女たちなので、常識に反する行為をおこなうことがあるし、いくら仲良くしているとは言っても、当然、些細なことでいざこざとなってしまうこともある。
紫穂自身は傍観しているだけだとも聞いているが、能力を使いながらとも小耳に挟んでいるため、もしもその矛先が紫穂へ向けられたなら、サイコメトラー能力しか持ち得ていない彼女が対抗することは出来ないのではなかろうか。
ぶるっと震えた妻の様子を見て、ああ、彼女の心配はそちらのほうかと、妻の態度とは裏腹に彼は内心微笑んだ。
どうやら、基本計画自体には賛成してもらえるらしいと知ったからである。
「そちらは問題ない。暴力団との抗争など、これまで揉み消しに協力してきた事件をリークすればいいだけの話だ。エスパーの健全な育成に失敗したとなれば、いかなバベルの局長でさえタダではすまないだろうし、彼女たちにも何らかの不都合が生じるはずだ」
「でも……」
「彼女らが逆上し、バベル以外から圧力を掛けようとする可能性は、少ないながらも無いとは言えない。が、バベルで育った彼女たちが頼み込める先は、自分たちの親しか考えられない。まあ、私たちの娘同様、家族から排除されたと感じている彼女たちが、それをするかは未知数だがね」
一旦言葉を切り、妻がここまで理解したことを確認した三宮は、そのまま続きの内容を口にした。
「もし仮にだが、おこなわれた場合の対処についても考えてある。内々に対応せず、法に基づいた対応を、粛々と進めればよい。二人の親は、事実をうやむやとするだけの権力を持ち得ていないし――ああ、これは確認済みだよ――たとえ社会を味方にすべく記者会見を開こうとも、報道にてどう書かれるのかコントロール出来ないことも分かっている。だから、心配は要らない」
一人の親は会社社長、もう一人のほうは俳優であり、どちらもそれなりに社会的地位が高いのかもしれないが、三宮以上に表と裏、双方の社会へ手を回すことが出来るとは思えない。
一番心配なのは、彼女たちがそういった搦め手を使わず、直接行為を仕掛けることである。
重要人物を拉致する等、最悪の場合についての検討もおこなったが、仮にそうなった場合、三宮は全力で彼女らと敵対するつもりだった。
彼は、日本警察のトップである。
今回の件はともかくとして、他の犯罪に対しては、厳正な対処をせねばならない立場なのだ。
そんな彼の真剣な態度を見、重みのある言葉を聞いている間、内心揺れ動きながらも、妻は夫の目をじっと見ていた。
テーブルの上では、彼女の拳がかすかに震えてもいる。
信頼する夫の言葉であっても、計画に対する不安を拭いきれないらしい。
だが、愛しい娘の将来を思うと、この計画を実行しなかった場合のデメリットのほうが、する際のリスクを遥かに上回る。
疑問や反論を思い付いては、それを飲み込む妻。
何回それを繰り返しただろう。
しばし後、ようやくであるが、こくんと頷いた妻の手を優しく包んだ三宮は、柔らかい口調で何も心配要らないと繰り返した。
「愛は全てを救うのだよ。それは、我らが娘も同様だ。ならば、恐れることは無い――」
「ええ、あなた。親である私たちが愛を与えられないことのほうが、問題ですわよね」
微笑んで納得した妻に、彼も笑みを返す。
「そう言うことだ。今日は、お前も呑まないかね? 前祝といこうじゃないか」
「ええ、そうしましょう」
いそいそとグラスを二つ用意した妻は、とっておきのワインを開けて双方に注ぐと、チンと軽い音をたてて乾杯した。
「紫穂の幸せのために、ですね」
「紫穂の幸せのために、な」
これから起こす犯罪は、娘に対する愛がゆえなのだ。
ならば、自分たちが地獄へ落ちようと、何も恐れることはない。
そう決心した彼らを見て、誰が異常だと言えようか。
法律が許さなくとも、世間が許さなくとも、おとぎ話で無いこの現実世界には、確かな愛が必要なのである。
どれだけの困難があろうとも、絶対に成功させなければならないと誓う彼らの計画の名は――
『紫穂と皆本光一の即時入籍計画』
と言った。
どこかで同時にくしゃみをしたような音が聞こえた。
―終―
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