絶対可憐百貨店SS集SS集

とりあえず仮ということでひとつ。
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what's your codename?
初出:NigtTalker GS・絶チル小ネタ掲示板
 今日も今日とてバベル内部の施設で訓練を続けていた『ザ・チルドレン』の面々は、それぞれに非常識とも思えるほど能力が高いことで、検査観測員から驚異の眼を向けられていた。
 何せ重さ数十トンにも及ぶ戦車を数台纏めてひっくり返したり、連続数百回のテレポートに成功したり、厚さ十メートルの鉛越しに情報を読み取ったりするのだ。
 いくら能力を知らされていても、実際にそれをおこなわれて、驚くなと言われるほうが無理がある。
 とはいえ、日本随一のエスパーである彼女らに取り、その程度の訓練はいつものことだったし、結果に驚かれても今さらだ。
 そしてまた、遠巻きにされることも、悲しことにいつものことであった。
 バベルには超能力者がいるが、彼女らの域に近い能力を持った人は、ほとんどいないのだ。
 昔はそれでひねくれていた彼女たちだったが――僅か五歳から隔離に等しい待遇で育てられた子供たちなので、歪まないほうがどうかしている――ただ一点、以前と違うのは、今の彼女たちには皆本光一が居てくれることだった。
 超度七の彼女らを普通の子供と扱ってくれる上司、皆本が居なければ、どうなっていたか、誰にも想像することは出来ない。
 今、周囲の人間と彼女らが表面上とはいえ普通につきあえているのは、上司としても人間としても、彼が心を閉ざさなかったから。
 他の付き合いも無きにしもあらずだが、バベル局長桐壺は彼女らを溺愛傾向であるし、その秘書朧は、逆に何を考えているか良く分からない感じがする。
 直前の上司に至っては、従わない彼女らを電流で虐待していたのだ。
 本人は躾と称していたが、子供に対する行動として、それを額面通りに受け取れる人は少数であろう。
 長年にわたる経過から、普通の子供として見られないことは既に慣れっことなっている三人だったが、ふと、嫌気がさしたのか、リーダー格である明石薫は、今日に限って訓練の合間にこう呟いた。
「あのさ……このまま頑張って、能力が超度七を越えたらどーなるのかな……」
 エスパーのレベルは、国際基準で七段階と定められている。
 日本記録を更新し続ける彼女らは、既に最高の超度七と認定されていたが、さて、その上はあるのだろうか?
 先ほどの観測員による畏怖の目を思い出しながら、同僚、野上葵はこう答えた。
「それ以上の名称は無いって話やで。別に、今までと変わらへんのやないの? どのみち、今の日本にウチら以上のエスパーは居ないんやから」
 何を今さらと言った風の言葉に、薫は少し口ごもった。
「でもさあ、何と言うか、変わってもいいと思うんだよね……」
「何がやねん?」
「だってさ、あたしたちだけ特別に認められたら、カッコいーじゃん! 『あたしたちが最強!』って感じで。何か特別な名前付けてさ、華々しくパーッと誰もがうらやむような、そんなコードネームになったら良くない?」
 特別視されることで反発が来るのは、薫も重々承知のはずなのだが、今日は体調が優れなかったのだろうか。
 その提案は、逆に特別扱いされることを肯定する内容だった。
 みなから信頼されている皆本が、今日に限って別な場所へ出張していることも影響しているのかもしれない。
 薫の、無謀とも言える言葉に呆れた顔を見せた葵だったが、黙っていると彼女がどこまで思考を暴走させるか分からず、いぶかしげな視線を送りながらも話を合わせた。
「別に、今のままでも十分と思うんやけど……薫には何か考えているのあるのん?」
 葵も、少しは気晴らししたかったのだろう。
 言葉には、困っている中にも面白がっているような響きが含まれている。
 ところが薫は、いとも簡単に質問を投げ返され、少し慌てた。
「え、えっとぉ……とっさに返されると出てこないような。あはは」
「そんなんで提案しよーと思たんか。もしかして、他力本願?」
 今度こそ呆れた顔となった葵に、ムキになって薫は続ける。
「ち、違うってば。こう、『レベルセブンプラス』とか、『エイトウーマン』とか、超度七のうえだから超度八としてパッと思い付くのはあったんだけど、何かしっくりこないなーと」
「あのなぁ、さっきからゆーとるやろ? 超度八は無いと……」
 溜め息を吐く葵の傍で、同じく同僚、三宮紫穂が面白そうねと、いつものお菓子を食べながら提案をする。
「超度八が駄目でも、『八』にちなんだやつを勝手に付けるのは構わないんじゃないの?」
「せやかもしれんけど……何かあるんか?」
 あんたまで何を言い出すんや、との冷ややかな視線を軽く受け流し、紫穂は少し考えてから、ゆっくりと言った。
「そうねぇ……『エイトスリー』とかなら別に気にならないと思うわ」
 おしゃれに気を遣う、実に紫穂らしい提案だが、元ネタが分かりやすい分、それが採用される見込みは限りなく少ない。
「何か、どこかで聞いたような名前ばかりやなぁ。独創性あるんかいな」
 葵の溜め息に、紫穂は少々ムッとした。
「それなら、葵ちゃんだって色々考えてよね」
「ええっ! いや、ウチら、今のままでいーんじゃないかなと思うんやけど……第一、皆本はんが言いづらいんやないか?」
 どこまでいっても超度が変わらないのなら、別にコードネームを変える必要は無い。
 それに、敬愛する皆本が自分たちをいつもの通り扱ってくれるのならば、出会った当初からの名称を変えるのは、彼に不都合ではなかろうか。
 とっさのときに以前のコードネームを言いそうになり、調子が狂っては本末転倒だ。
 そんな葵の逡巡を無視し、薫は豪快に笑った。
「そんなのさぁ、皆本を調教しちゃえばいーじゃん!」
「な、な、な、なんつーこと言うとるんや! ちィとは自重しい!!」
 頭痛が起きそうな薫の提案に、葵は顔を赤らめながら眼鏡の中央を押さえた。
 さすがは自称チーム一の常識人である。
 が、その常識が邪魔をして、薫の言葉がいかに非常識なのか指摘出来ないのが腹立たしい。
 また、自分で常識人と言っているため、受けを狙えそうな名前を思い付いても言えないがまた癪に障る。
 『エンジェラー・スリー』とか『レディズ&ボウイ』とか、思い付くのはあるのだが、自分でも面白いとは思えないからには、すかさず却下されてしまうだろう。
 ましてや、言いやすそうなと言われ思い付いたのが『スーパーセブン』だなんて、お買い物にでも行くのかと揶揄されそうで恥ずかしくてとても言えやしない。
「もうちょっと暴れられそうな名前もいーかなぁ」
 先ほど相対した戦車だけでは暴れ足りなかったのか、そんな言葉をのたもうた薫に、冷静な紫穂の突っ込みが入る。
「薫ちゃん。それだと、梅枝ナオミさんのとかぶるんじゃないの?」
 彼女も同じバベルの同僚で、いつもは礼儀正しいのだが、色々あった結果、現在のコードネームは『キティ・キャット』から『ワイルドキャット』へ変更となっている。
 一瞬、そうなった経緯と、原因である思いこみの激しい彼女の上司を思い出し、それも嫌だよなーと溜め息吐いた薫は、他になにかあるかと額に左手の指を当て、もごもごと呟く。
「超えるんだからスーパーとかアッパーとか、可愛くレディースとかドレッシーズとか……」
 そのうちに、何か思い付いたのか、彼女はおもむろに顔をあげた。
「……あたしたち、普通の人に見られないならさ、いっそのこと……」
「と?」
「『ウルトラセブンズ』でどーかな?」
 とたんに、他の二人が反対する。
「あほかいな! そんなん、版元が許さんと思うでぇ? いくらコミカライズしてるっつーても、それが許されるんなら、ファイターブルーズでもええやん!!」
「それだと、葵ちゃんの色だけになっちゃうわよねー。コマンダーパープルとどっこいじゃないのかしら?」
 薫の提案が、さすがに自分勝手に思えたのか、さりげなく自分のパーソナルカラーを売り込む二人であるが、彼女らの発想も似たりよったりだ。
 改変と言うか、どこの悪人だかヒーローだか分からないような名前ばかりが出てきて、もはや収拾がつかなくなってしまう。
 結局、何故変更が必要なのかとの当初の目的を忘れ、ひたすらに言い合って訓練を中断させてしまった三人は、出張から戻ってきた皆本にこっぴどく怒られた。
 あたりまえである。
 しかも、言い訳のついでに皆本に新名称の採決を仰ぐとあっては、盛大な溜め息を吐かれてしまっても仕方がないところである。
 今は十歳の彼女らも、いずれは子供と言えなくなり、『ザ・チルドレン』のコードネームは変更されることだろう。
 しかし、先取りして変える必要性があるのか、皆本には分からないし、バベル責任者の桐壺局長でさえ決めかねるに違いない。
 言い合いで疲れたのか、夜になり、ベッドに辿り着くことなく眠り始めた三人をソファーへ横たえ、毛布を掛けてあげた皆本は一人、始末書を前に今日の騒ぎを振り返った。
「コードネームを変えるだけで、僕が君たちの扱いを変えると思ってるのか? まったく……」
 今は皆本にとり、三人とも手が掛かるものの、単なる子供たちだとしか思えない。
 たわいもない話題で大騒ぎしていること、それ自体がまだまだ子供の証であると、そう考えざるを得ないのだ。
 なので、出来事を反芻すればするほど、彼は苦笑するしかなかった。
「これ以上騒ぎが大きくなったなら……」
 局長から、三人の代わりに書けと押しつけられた始末書を、コーヒー片手に処理していた皆本だったが、ふと、以前テレビで見た番組を思い出して、こう呟く。
「いっそのこと、『三人が斬る』とでも改名してやろうか? それとも、『アタック・オブ・ザ・キラキラエスパー』のほうが良いかな?」
 自分でも、疲れてしょーもないことしか思い付かないなと考えつつ、日一日と心身の成長を続ける大暴れ三人組に、皆本は、溜め息を吐きつつも暖かい眼差しを送るのだった。





 ―終―
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