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> 短編 > 眼鏡の色は
眼鏡の色は
初出:NigtTalker GS・絶チル小ネタ掲示板
イラスト:サスケ
「どうした、葵?」
皆本光一がふと隣を見ると、彼が指揮するエスパーチーム『ザ・チルドレン』のメンバー野上葵が眼鏡を何回も掛け直し、真剣な顔付きで手に持った紙を見やっていた。
眼鏡を外し眼を細めたことでいささか目付きが悪く見えるのは仕方ないが、口をへの字に曲げることまでしなくとも良いだろう。
たまにむっとした顔付きになることはあるが、こんな表情の葵は少々珍しい。
どんな問題が、と疑問を投げかけた皆本へ、葵は、ハッと顔を上げて、困ったような口調でぼそぼそと答えた。
「あ、皆本はん。ええと、その、今、ちィと眼鏡の調子が悪うて……」
「え? 先月の検査では問題無いって言ってたんじゃなかったか? ……なるほど、先週の検査はサボったな?」
ははーん、とすぐに皆本は納得した。
何せ、葵の眼鏡は特注なのだ。
なのに調子が悪いとなれば、そう考えるのが皆本にとっては自然である。
その結果は葵の自業自得なのだから、彼は強くとがめる気がしなかったものの、その口調には内心の苦々しさがあらわれてしまったようで、聞いた彼女は狼狽しながらも即座に反論した。
「そ、そんなことあらへん! ちゃんと行ったで」
「そう言っても説得力ないぞ。いくらまだ成長続けているって言っても、たった一週間程度で急激に能力が伸びるはずないだろ?」
「……」
言い逃れは通用しなかった。
押し黙った葵の後ろから、ひょっこり三宮紫穂が顔を出す。
彼女も同じチームなので、同僚の不調はとても気になるのだ。
しかし、今の話は聞いていたようだが、理解出来てはいないようで、紫穂の顔は疑問符いっぱいの顔となっていた。
「……いまいち話が見えないんだけど、皆本さん、何の話をしてるの?」
対する皆本は、紫穂も知らなかったのか、と僅かに驚いたものの、ざっと説明をした。
「ああ、葵の眼鏡は特別製なんで、検査のたびに調整してるんだ。で、先週おこなうはずだった検査の一部を葵がサボったって話」
説明とは言いつつ、どのように特別なのかを話さないでは、意味不明だろう。
説明聞くより直接『視た』ほうが早いわね、と紫穂は葵の眼鏡に手を伸ばした。
彼女はサイコメトラーなので、物体から直接情報を入手出来るのだ。
「一見、普通の眼鏡に見えるけど……」
紫穂の能力に呼応してか、触れられた眼鏡が僅かに震えたような反応を見せる。
「なんかさー、アイテム鑑定でもしてるようじゃん」
いつの間にかチーム最後のメンバー、明石薫も目前でそんな言葉を発している。
まったく、みな、どこに隠れているのだろう。
皆本の指揮下にあるはずの彼女らは、僅かでも不満ごとがあると即座に仕事へ消極的態度を取るくせに、こういった少しでも妙なことがあると、呼ばれなくても野次馬根性でどこからともなく顔を出すのだ。
テレポーターの葵ならともかく、サイコメトラーの紫穂もサイコキノの薫も、まるで葵と同じ能力を抱えているがごとくに現れるのは、皆本が彼女らに感じている七不思議の一つとなっている。
「鑑定終わったら、呪われたりして。きししし」
学校へ行くようになり、クラスメートからゲームの話も聞くようになった薫が、そんな感想だか揶揄だかを漏らす。
「そんなんなってたら、架けられへんやないか。感化されるのも、たいがいにしとき」
呆れた口調の葵を尻目に、紫穂が突然驚いた声を出した。
「これ、空間感知能力を抑制してるの!? テレポーターなのに、こんなの付けて……」
「仕方ないやん。必要なんやし」
葵はそうぼやくだけだが、さすがに脳天気な薫も重大さに気付いたか、皆本を見上げて懇願した。
「そんな大層なもんなんていらないじゃんか! ちょっと、皆本。リミッター以外にそんなの必要なんて、絶対理不尽じゃん。どーにかならないの?」
言われて困った皆本が、確認を取るように周囲を見ると、やはり紫穂も同じような顔をしていたため、少しばつが悪そうな葵に替わり、皆本は説明を始めた。
「さて、簡単に言うと、テレポートする際に必要なのは、移動先に何があるのか感知必要なことなんだ。石の中に閉じこめられないためにもね。で、葵の能力は少々高すぎるので、移動先感知内容と実際の移動先がズレないよう、眼鏡で焦点調整の補正をしてるって訳」
「なんか分かんなーい」
全然簡単ではない内容を聞き、案の定、薫は音をあげた。
なので、むう、と唸ってから皆本は、出来る限り噛み砕いて説明しようとする。
「具体的に言うと、移動先にあるものと実際目前にあるものとを区別する必要が生じるためなんだけど……で、能力が高すぎると同一認識へと陥る可能性が高くなって……眼鏡を使用することにより向こうとこちらの空間焦点を脳内で補正させることが楽に……」
「……ますます分からないわよ……」
言い直すたび複雑化する内容に、ぼそっと紫穂も溜め息を吐く。
葵の能力、テレポーテーションは、まだまだ科学では説明しきれない部分が多い。
そもそも、無意識下でおこなっている行為を言葉で説明しようとするのは困難なのだ。
元とはいえ研究者の常で皆本は出来る限り噛み砕いて説明し、納得させようとするが、それがため小学生へ専門知識を披露するのは明らかにやりすぎである。
長くなる一方の説明に、とうとう薫が切れた。
「分かんねー!」
大声を出し、皆本の説明を遮った彼女は、彼へ向かってこう言った。
「ようするに、葵の眼鏡は近眼用眼鏡じゃなくて、遠近両用眼鏡だってことだろ!?」
「その理解はどーかと思うが……」
確かに、現在場所とテレポート先、遠くと近くの区別を付けるのを助けるため開発された眼鏡なのだが、少々たとえが異なる気がしないでもない。
もう少し良い言い回しがあるだろ、と皆本は言い掛けたが、紫穂は右手をずいと出してそれを遮った。
「まあ、皆本さんもその辺で妥協しといたらどう? これ以上専門知識を出されても、こっちが着いていけないわよ」
頭が痛むようで、左手がこめかみに添えられた彼女の様子を見、皆本は首をひねりながら葵へ尋ねる。
「うーん……そうかなぁ。薫も紫穂もああ言ってるけど、葵はそんな理解で構わないか?」
「いいはずあらへんやん!」
他の二人が困惑してる中、怒ったような口調で葵が苦言を発する。
理由が分からず、薫は尋ねた。
「なんで? だって分かんないんだもーん」
あんた、頭悪いとちゃうんか――
そんな言葉が聞こえてきそうな鋭い眼光を伴い、畳み掛けるように葵が言う。
「それだと、まるでばーちゃんになったみたいで嫌やん! まだピッチピチのギャルなんやで!? なのに老人性眼鏡を掛けてるみたいに思われるんは、納得いかへん!!」
「ばーちゃんみたい……ぷっ」
理由を聞いて納得するどころか、薫は吹き出した。
「何が可笑しいんや」
むっとした葵に、笑いを堪えながら薫が理由を述べる。
「だってさー。年を取ってても、不二子ばーちゃんみたいに若く見える人だっているじゃん。問題ないじゃんか」
不二子ばーちゃんとはバベル重鎮、蕾見不二子氏のことであるが、彼女の実年齢と外見は、実に六十年以上もの開きがある。
もちろん、外見のほうが若いのは当然であるが、彼女をたとえとして出されても――
それとこれは、何かが違う。
絶対に、何かが違う。
薫の理解は、皆本も紫穂も、当の葵でさえも呆れてしまった。
「そんな問題、かいな……はぁ」
気の抜けた返答しか出来そうにない。
険悪だった雰囲気が、一気に脱力へと変わっていく。
へたり込みそうだが、何とか気を取り直した皆本は、雰囲気が和らいだことをこれ幸いと口を開いた。
「ともかく、葵の眼鏡は特殊なんだけど、それを問題にはしないように。で、葵もちゃんと検査受けて調整しとくよーに!」
「はーい」
「はいはい、分かったで」
皆本の声へ薫と葵の同意が発せられる中、何故か一人、紫穂は考え込んだようだ。
「皆本さんが言うのは、色眼鏡で見るなってことでいいのよね……ふーん、なるほど」
言葉で捉える限り、小さく呟いた紫穂の理解の内容は、間違っていないよう思われる。
が、その裏には別な意味が隠されているような感じもする。
彼女の楽しそうな表情を目ざとく見つけた薫は、何かあるの? と尋ねた。
「えっ? あ、あの、その……」
しかし紫穂は、それへ珍しく言いよどんだ。
毒を含んだ内容でさえすぱっと言い切ってしまう紫穂にしては、かなり珍しい態度だ。
みなから興味津々な態度で詰め寄られ、場を切り抜けられなかった紫穂は、最終的に、もじもじしながらではあるが答えた。
「あのね、その、葵ちゃんのこと色眼鏡で見ないから、えーと、その、私のことは皆本さんの……『エロ眼鏡』で見て欲しいなって……きゃっ、恥ずかしい♪」
可憐に頬を染め、顔を両手で抱えながら悶える姿は、年頃の女子であれば魅惑たっぷりの様子に見えるだろう。
が、まだ小学生の紫穂が取るのは、いささか不釣り合いであり、更に言えばいつも毒舌吐きまくりのその口から発せられるとは思えない甘い言葉に、皆本の視界は歪み、眼鏡がずれ落ちる。
同じくずっこけた薫と葵からは、立ち上がるやいなや、剣呑なオーラが発せられた。
当然、紫穂へ突っ込みが入るはずだが、何故か二人は皆本へ振り向くなり、こう叫ぶ。
「皆本ぉ……その眼鏡は透視能力付きかぁ! あたしにもよこせぇ!!」
「皆本はんが、そんな眼でウチのことを……も、もうちょっと胸が育ってからだって言ったやん!!」
ああ、素晴らしきかな色眼鏡。
皆本のことを分かっているようで全然分かっていない感じの咆吼が、皆本の身体を文字通りぐるぐると回転させる。
いつもながらのドタバタ劇。
コミカルで、シリアスで、なんてドラマチックな恋愛劇。
眼鏡論争にならなかったのは皆本にとって幸いだったが、この騒動は、結局、紫穂が苦笑混じりにやめなよーと言うまで続いたのだった。
騒いで楽しむお年頃の少女たち。
その瞳には、いかなる未来が見えるのだろうか。
見たい未来、期待?
暗い未来、見ない!
願わくば、みなに幸多からんことを。
―終―
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