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> 短編 > 鑑賞への干渉
鑑賞への干渉
初出:NigtTalker GS・絶チル小ネタ掲示板
「皆本さん。チルドレンへの教育プログラムなんですけれど、提案のあったこの時間は何でしょうか?」
とある日の昼下がり、バベル職員の柏木朧は、廊下で配下の皆本を呼び止めて尋ねた。
皆本は特務エスパーチーム『ザ・チルドレン』の運用主任であり、その教育方針にも色々と考えを持っていることから、チルドレンの教育プログラムへ積極的に改良を提案していたのである。
主任となる直前までESP研究員として名を馳せていた人物だったこともあり、その知識は、そこいらの人間に負けてはいない。
なので、バベル局長秘書の立場で彼の提案をサポートする朧としては、これまでの提案は安心して桐壺局長へ決裁を回すことが出来たのだが、今回の修正申請内容は不可解であった。
「『鑑賞時間』とあるだけでは、変更出来ないんですけど……」
意味不明と言った朧へ、どれどれ、と何が疑問なのか彼女が指し示すバインダーを見た皆本は、あっさりと答える。
「これはビデオの時間ですけど、何か問題でも?」
朧のバインダーに挟めてあったのは、彼が今朝作った訓練予定表の変更案。
昨夜、色々と調べて必要な事項をプリントアウトしたので、今朝さっそく朧に届けたのだが、それで呼び止められるとは皆本は思ってなかったようだ。
天才のくせして問題の根本を理解してなさそうな、端的な皆本の答えを聞き、更に朧は尋ねた。
「だから、あの娘たちに何を見せたり聞かせたりするつもりなんですかって、そう聞いているんですけど」
本当に、何を聞かれているか分からなかったのだろう。
一瞬、皆本は目をぱちくりさせ、それから、あぁ、と相槌を打った。
「アニメです」
「アニメ……ですか?」
いったい、アニメで何を教えるつもりなのだろう?
少々眉をひそめ、いぶかしげな視線を送った朧へ、皆本は眼鏡を押さえながら論じた。
「そもそもの話ですけど、僕たちは今、敵についてどう対処したら良いのか、何も分かってません。反エスパー組織『普通の人々』は、獲物が通常兵器の範疇であるがゆえ、対処も立てやすいです。問題になるのは、ESPジャマーとのいたちごっこくらいですかね。けれど、同じエスパー――特に兵部へ対抗するためには、どうしても能力を開発する必要があると、そう思うんです」
「はぁ……で、これで何を教えると? 以前、年齢以上に能力を伸ばしていくことは、時期尚早と反対してらしたじゃありませんか」
朧の疑問も、もっともなことである。
確かにチルドレンの能力は、日本随一だ。
しかし、彼女たちはまだ十歳たらず。
能力は高くても、それに心身が付いて行かないため、これまで極力そういった内容のプログラムは組んでこなかったのである。
それへ、確かに、と前置きして皆本は答えた。
「今の段階じゃ、能力を伸ばしてもコントロールが追いついていかないのは分かってます。まだまだ子供ですし。でも、いつまでもそう言っていたならば、何も出来ません。なにより兵部との対決を考えるのならば、いくばくかでも悪あがきはしなければと、そう思うんですよ。多少ですけど、あいつらも考えるようにはなってきてますしね」
学者の悪い癖を彼も持っているのか、ここぞとばかりに皆本は熱弁をふるう。
「でも僕たちじゃ、超能力戦のイロハを教えるのは難しい――知識はあっても、どうあがいたって普通人ですから。だから、それを扱っている映像を見せれば、あいつらも考えの幅が広がるんじゃないかと考えたんで、この時間を組み込むよう申請したんです。本当なら実戦映像が欲しいんですが……さすがにバベル内での模擬戦闘程度ならともかく、軍隊レベルともなれば各国ともマル秘扱いで手に入れられないため、さしあたってはアニメしかないかと思ったんです。まあ、現段階ではこれくらいしかリストアップ出来ませんでしたけど、少しは役立つでしょう」
本当に、思惑通りとなるのだろうか?
どこに用意していたのか、ずらっと予定作が並んだリストを見せられて、はぁ、と朧は溜息を吐いてから読み上げる。
「超○ロック、ゴッ○マーズ、バビ○二世、ス○ーウォーズ……最後のはちょっと違うような……?」
「いえ、それも見せないと。善悪の判断に迷っては困りますから。それに、あの能力も超能力だと思いませんか?」
最後の作品で扱っている能力が、いわゆる超能力とは微妙に色合いが異なるとの突っ込みが無視されたのはともかく、チルドレンに対するときとは違い、皆本の口調はやけに丁重かつ幾分か無愛想である。
普段、彼女たちとの騒がしくも楽しそうな様子を見せられているため、朧には今の彼の態度が少々面白くなかった。
彼をスカウトしたときの、あの人を寄せ付けない雰囲気が感じられたためだ。
この申請が、彼女たちのためなのか、それともESP研究の一環なのかは、眼鏡に隠された彼の目を見てもハッキリしない。
最近はだいぶ表情が柔らかくなってきたと感じ、嬉しくなっていた朧としては、大いに不満だった。
そんな中で同意を求められても、朧には答えようがないではないか。
結局、皆本さんもマニアなのね、と何となくがっかりしながら――何でがっかりしたのかは口にしないが――彼女はリストに目を戻した。
一番下に購入予算の見積もりがあったので、その金額を見て、まあこれくらいなら問題ないかしらと思った瞬間、そのすぐ上の文字を読んで絶句する。
「……何ですか、これは?」
肩が震えながらの朧の問いに、皆本は、へっ、としか答えられなかった。
単にネットで検索した結果を印刷したのだが、こんなものだろうと思っていたため、この彼女の様子が不思議でならない。
何か問題あったのかと目で問う彼へ、朧は顔を赤らめながら言った。
「『愛のロック―69―』って何ですか? 『マーズとマーグと愛の金字塔』とか、いったい何を教えるつもりですかっ!?」
「……えっ!?」
タイトルを告げられ、慌てて皆本はリストをひったくった。
何かの間違いではないかと。
しかしそこには――まごう事なき怪しげなタイトルが、いくつも印字されていた。
どうやら、超能力関連で調べた後、タイトルで再検索したのがまずかったらしい。
一応見直しはしたのだが、毎日チルドレンの相手をして疲れていたこともあり、全く関係ない、子供には見せられない類の作品までリストアップされたのを見過ごしてしまったようだ。
「は、ははは……ちょ、ちょっと手違いが……」
何でこんなものまで検索に引っかかるんだー、と泡食っている皆本を朧はギロリと見て、不満そうな口調で告げた。
「精査が必要ですね。必要であれば、明日朝に再提出すること。いいですね?」
「は……はい」
「返事は大きく」
「はいっ!」
反射的に敬礼した皆本は、リストを手に、顔を赤らめながら逃げるように駆けだしていった。
このようないかがわしいものを購入予定だったなどとチルドレンに知られたら、どんな難癖を言われるか分かったものではない。
敵の仕掛けた夢において、にやにやしただけでさえ非難囂々だったのだ。
また、これらのタイトルを、小学生女子と同居中の独身男性が注文した事実を他人に知られたなら、それこそ身の破滅である。
特に、普段は友達として付き合っている某医師が知ったならば、声を大にして吹聴し、今後しばらくバベルに顔出すことが出来なくなるであろう。
一刻も早く証拠品のリストを処分するため走っていった皆本の後ろ姿を見て、朧は呟いた。
「まったく、あんなもの彼女たちに見せてどうするつもりだったんですか」
口調は幾分怒っているように聞こえる。
が、言っている内容とは裏腹に、こちらも顔を赤らめながら、と彼女は意外にもウブな反応を見せていた。
年齢は不詳なのだが、その態度から察するに、ああいった内容には比較的免疫が無かったらしい。
彼が視界から消えても、まったくもう、と溜息を吐いている。
どうやら、皆本が本気で購入予定だったと思いこんでいるようだ。
なお、タイトルだけ見て怪しいと気付く朧も本当は相当なものであるが、そちらは言わずが花のようである。
そんなもの購入しなくとも、と思い、何でこんなことを考えなければならないのかしら、と頭を振った朧は、ふと、何かに気付いたのか、手に持っていたバインダーの余白へ文字を書き込んだ。
「これも追加しておけば、彼も分かってくれるかしらね」
まだ彼女たちに遠慮を感じているため、自分からこんなことをして良いのか、いくら考えても明確な判断は付かない。
けれど、鑑賞会の事前審査で一緒に見る機会があるわよね、それで彼が行動起こしてくれたらと、そう思ったため、取りあえず彼が再提出するであろうリストに項目を加えるべくメモを準備する。
「せっかく近くに居てほしいとスカウトしたってのに、もやもやしちゃうじゃない」
そして、あぁもう、と悩ましい息を吐きながら、朧も歩き出す。
このごろ、周囲の人間から彼へのアプローチが積極的になってきているのを感じているため、自分もそうしなければ、とも朧は感じていた。
たぶん、躊躇している時間は、ごく僅かしか残されていないだろう。
ならば、二人きりの時間をこちらで作るのみである、と彼女は歩きながら考える。
彼からの提案なら、チルドレンにも言い訳が立つし、彼だって抗しきれないはず――
そう思い、笑みを浮かべた朧の顔は、いつになくバラ色に輝いていた。
そんな彼女の様子は、やっぱりと言うかお約束と言うべきか、皆本の動向を気に掛けている人物に目撃されていたのだが、それを彼女が知るよしは無かったのだった。
そして、色々あって後日購入されたビデオの中には――
誰かが紛れ込ませたのか、『オフィ○ラブ』とか『○リータ』とかの更に怪しげなタイトルのものもあったとかなかったとか。
しかし、支払いに回された書類には健全なタイトルしか載っておらず、また、購入されたアニメ等を皆本と朧が二人きりで見たのかについては、双方とも青い顔で口を噤んだまま、何も語ろうとしないのだった。
―終―
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