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> 短編 > エンジェル
エンジェル
初出:NigtTalker GS・絶チル小ネタ掲示板
「結局、皆本とキャリーは、相思相愛だったのかなぁ……」
いつもの訓練の合間に、明石薫は、ぽつんとそう呟いた。
バベルに所属している彼女ら『ザ・チルドレン』のメンバーは、定期的に検査やトレーニングを専用施設でおこなっている。
今日もそうした日常の一コマであったのだが、その最中、同様に訓練をしているとき上司である皆本光一を尋ねて来た女性のことを思い出してしまったのだ。
皆本のことを憎からず思っている薫にとって、たとえ昔の話だとしても、今後も僅かながら可能性がある限り、二人ですごしていた際の具体的内容が気になるのは当然のことである。
今日は順調に訓練をおこなっていたが、何せ訪問時は大変な事態が連続して発生――自分らで引き起こしたとも言うが――してしまっていた。
薫らは特注ガラスを壊して珍しく罰を受けてしまうし、皆本の上司となっている朧さんを始めとして興味津々な人たちが会談内容をテレパシーやクレヤボヤンスで探ろうとして後ほど大目玉を食らってしまうしと、色々あったのだ。
さんざん騒いだあげく、皆本の恋については、一応の決着が付いたのだが――
その相手、キャリーは二重人格者の片割れであり、更には人為的に生み出されたため、幼くて不安定な女性であったとなれば、普通の結果に終わるのを望むのは、少し酷な話であったのかもしれない。
皆本と別れたことを理由に、今は遠い宇宙空間にて眠る彼女を一方的に断罪することは出来やしない。
そう頭では理解しているが、薫には、今ひとつもやもやしたものが残るのだ。
小さめの声にもかかわらず、彼女のぼやきを聞いた同僚、野上葵は、何を今さらと言った。
「今は切れとるんやから、そんな声出さんといてもえーやん」
いつもは暴走しがちな薫を心配してか、葵の声は妙に明るい感じがする。
それが逆に癪に障って、薫はついムキになってしまった。
「でもっ! そう言っても、割り切れないものってあるじゃんか!! 葵だって、そーなんじゃないの?」
皆本を慕う気持ちは、薫も葵も、そして同じくメンバーの三宮紫穂も同様だ。
そう感じているからこそ、三人そろって彼の指揮下で働いているのである。
この前提が崩れた時、チームがどうなるのかは、薫も葵も知らない。
慕う気持ちが恋になり、愛になり、誰か特定の人物が皆本の隣に立ったなら、果たして残された人たちはどんな行動を取るのだろう?
今はまだ皆本から『子供だ』と言われ、一定以上の線引きをされているように思う。
しかし、あと数年も経てば――
それまで、彼が待っていてくれるならば――
都合良く時が止まることを期待するには、チルドレンたちは、あまりにも現実を知りすぎていた。
自分たちがエスパーで、今は日本政府の管理下に居ざるを得ず、そして一部の人からは恐怖の対象として見られていることを、好む好まざるにかかわらず、みな重々承知なのだ。
自らと皆本が好ましい関係を結べるか、頭の片隅に一抹の不安を抱えている葵は、薫の言葉を聞いて僅かに顔をしかめた。
「せやって……皆本はんは……」
思考が纏まらず、葵がもごもごと口を動かしているさなか、紫穂がどうしたの、と怪訝そうな顔で寄ってきた。
先ほど花を摘みに行っていたため、二人の会話を聞いていなかったのだ。
しかし、優れたサイコメトラーである彼女は、思考を読まずとも雰囲気を察してか、こう告げた。
「皆本さんのことなら、大丈夫よ。私たちが居るじゃないの」
「そうなの? それだけじゃ、十分じゃないじゃん……」
不安そうな薫の反論も、意に介した様子は無い。
「薫ちゃんが言うのは、キャリーのことでしょ? 大丈夫よ」
自信ありげに見えるのは、何故なのだろう。
「もしかして、皆本はんの心を読んだん?」
薫も葵も、他人の顔色を察しながら生きてきただけあって、皆本が表面上立ち直っているのは分かっている。
しかし、紫穂のように彼が大丈夫と言えるかと言えば、それは自信がない。
目を見れば、彼女が自分の能力だけを頼りに言っているわけでないのは分かるものの、さすがに根拠が乏しいため、薫は紫穂へ尋ねた。
「何で大丈夫なの? 皆本は、あんなに苦しそうだったじゃない!」
キャリーからの、永久に等しい別れの手紙を読み、物理的にも遠く離れてしまった皆本は泣いていたようだった。
紫穂もあの光景をかいま見てしまったのに、彼女一人だけが懸念を持たないのは、かえって不自然だ。
問われた紫穂は、そうねぇ、と一拍置いてからあっさりと答えた。
「だってキャリーは、肉体はともかく、精神的には子供だったのよ? それも今の私たちより小さな」
それは知ってる、でも――と口を挟むのを遮り、彼女は更に続ける。
「今回のことで、皆本さんは、基本的には子供が好きだってことが判明したじゃない。だから、私たちにもチャンスはある、と言うか、いつも『子供だ』って言われている私たちの方が、他の人たちよりずっとお眼鏡に適う存在だってことでしょ」
何と言う発想の飛躍。
「そんなもんでええんかい!?」
思わず叫んだ葵に、紫穂は微笑む。
「もちろん、今の私たちが皆本さんに相応しいかは分からないわ。でも、相手として可能性が一番高いのに、駄目だって言う根拠は全然無いでしょ?」
皆本の周囲で一番年齢が低いのは、たしかにこの三人だ。
私生活も含めたあらゆる場面でもとなれば、もっと低年齢の人は居るが、しかし、その人と親密になる時間が彼に与えられることは、まずないだろう。
紫穂の言葉は、もっともに聞こえる。
が、堂々と言うべき内容なのかには、首を傾げざるを得ない。
「うーん、分かったような、分かんないような……」
「屁理屈みたいやな」
大人となり、皆本と釣り合いの取れる女性になりたいと思っていた二人にとって、この逆発想はなかなか受け入れがたいものだ。
「……なぁ、紫穂。あたしたち、いつまでも子供でいられるわけじゃないのは、重々承知なんだろ?」
いぶかしげな口調でそう言った薫に、葵も同調する。
「せや。子供んままなら、結婚もできせーへんのやで?」
二人からそう言われ、紫穂は意外そうな顔をした。
「何、そんなこと心配してたの?」
「そんなことって……重大問題じゃない!」
薫が、大声を上げる。
紫穂の、まったく気にかけてない理由が全然分からないからだ。
日ごろ頭が良いと言われている葵にもさっぱり訳が分からず、薄気味悪さを紫穂に感じてしまう。
紫穂は突飛な発言をたまにするのだが、ここまで変だと、どこか頭のネジが無くなったのかとさえ考えてしまうではないか。
疑惑の視線を受けている当の彼女は、今にも後ずさりしそうな薫と葵の顔を交互に見ながら、あっさりと理由を告げた。
「皆本さんに必要なのは、少し語弊があるかもしれないけれど――彼と理屈ぬきで愛し合える、子供のような愛情を持った存在じゃないかなと、そう思うの。まるで無垢な天使のごとき、のね」
「それで?」
「だから、私たちがそうなるか……あるいは、さっさとそう言う子供を生み育てればいいだけの話でしょ。簡単じゃない」
かくん、とあごが外れた音が響く。
一瞬だけほうけて、慌ててあごを治した葵は、呆れた口調で反論した。
「どこが簡単やねん! 問題ありまくりやで!?」
知識としては知っていても、まだ満足な性教育を受けられる年齢でない葵には、紫穂の発言は飛躍しすぎていて、まるで月世界から聞こえてきたような感じがするのだ。
葵と比べ、少々その手の知識が先行している薫でさえ、『皆本が好き』と『自分と皆本の子供』が即座にイコールで結びつかないようだ。
むしろ、二人と同年齢、恋に恋するお年頃のはずの紫穂がこんなことを考えるほうが、どうかしていると言えよう。
「と言うわけで、この作戦を、さっさと始めましょ。ミッション名は……そうね、『エンジェル』でどう?」
西洋では、子供をエンジェルと称することもあるため、名称としてはあながち間違ってはいない。
もしかすると、皆本が彼女たちの背中に翼を幻視したことを知っているから名づけたのかもしれない。
紫穂の言葉と笑みが塊となって、薫の身体のどこかに、つっかえながらも落ちていく。
「なんてーか……その、紫穂には呆れたぁ」
どっと力が抜け、やっとのことでそれだけを言った薫は、まじまじと紫穂の顔を見た。
同じ年のはずだが、どこか成熟している感じのする、彼女の顔。
それはたぶん、気のせいではないのかもしれない。
ともあれ、自信満々な紫穂の顔を見ているうちに、葵も薫も、自分を取り戻してきたようだ。
何となく、彼女の考え自体は悪くない、そう思えてきたのだ。
キャリーとの別れで泣いていた皆本の姿は、忘れようにも忘れられない。
その彼を救えるのなら、何のためらいがあろう。
皆本の救いとなるのが、自分たちであって、どこが悪いのか?
年の差なんて、あのキャリーの精神年齢を考えれば、ずっと小さいではないか。
ようやく納得した二人の顔に、笑みがこぼれる。
それを見て、満足した紫穂は頷いた。
「それじゃ、ミッション発動ってことで、おっけーね?」
「うん、分かった」
「了承――やな」
そして、同意を得た紫穂は、先に行くわねと、くるりと後ろを振り向いて歩き始めてしまった。
「ど、どこ行くんや?」
泡食った質問にも、彼女は慌てない。
いかにも平然とした口調で、あっさりこう返す。
「どこって、皆本さんのところよ。昔から、先手必勝って言うじゃない。薫ちゃんも葵ちゃんも同意したし、言いはじめの私が先行するのが自然でしょ」
さらりと言ってのけた紫穂に、二人はまたもや呆気に取られた。
しかし、今度は呆けているわけにはいかない。
抜け駆けを絶対に阻止するべく、紫穂の先へと、さっと立ちふさがる。
「あら、そんなことしなくても、優先順位は既に決まっているから無駄よ。ねぇ?」
にこやかな、あくまでにこやかな顔で、紫穂が語りかけるようにお腹をさする。
「そんなん、ずるいでぇー!!」
「勝負パンツ準備してないのにぃ!!」
二人の絶叫が訓練場を越え、虚空にまで響いていく。
作戦が今後成功するかは、まだ誰も分からない……はずなのだが、ただ一人、紫穂だけは涼しい顔で微笑むのだった。
ちなみに、同時刻、皆本の昔話を知っていた賢木は、こんなことを呟いていた。
「そーいや、キャリーって、皆本とお似合いだったっけなぁ……」
賢木が知る限り、研究に没頭していた皆本が親しくしていた女性は、キャリーのみ。
その彼が子供だけのESPチーム『ザ・チルドレン』の上司となり、紆余曲折はあるにせよ上手くやれているのは、彼が子供好きのためだろう。
そう思った彼は、一人結論付けた。
チルドレンのみならず、昔の彼女も精神だけとはいえ子供だったからには、間違いじゃないはずだ。
なので、正々堂々言いふらしてやろう、と。
「やっぱり皆本はロリコンだな!!」
悔しがる女性陣をどう慰めるか思索しながら、しかし彼は、その発言が自分を血に沈めることにまでは思い至らないのであった。
―終―
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